リベラル21の反中国に呆れる(2023年4月5日分)(追記あり)

リベラル21 「手厚いもてなし」と「トラの手下になるな」(田畑光永

 秦剛*1外相からは福島原発の汚染水の排出問題について、「ことは人類の健康と安全にかかわる問題であり、日本は責任を持って処理してほしい」とか、米が半導体の対中輸出制限に日本も同調するよう求めている問題についても、「米はかつて日本の半導体産業をひどく痛めつけた。日本はその痛みを分かっているのだから、『虎*2の手下』にならないで欲しい(『不応為虎作伥』)」と、遠慮なしの注文をつけている。

 他の問題はともかく、福島原発汚染水排出については、中国だけでなく「日本国内の脱原発派」からも批判があり、リベラル21も「脱原発」を表看板にしてるのに、「中国が厳しい態度だった」と書くだけで終わりなのだから、田畑には「おいおい」ですね。
 せめて簡単にでも「私も汚染水排出には反対だ」「中国の思惑が何であれ、この件では中国を支持する」位書いたらどうなのか(追記:リベラル21 原発の汚染水の海洋放出を強行するな(岩垂弘)は汚染水排出を批判しています)。
 なお、青字部分からは中国が米国の「反中国」的な態度を「1980年代の日米貿易摩擦での日本叩きと同じ」「『中国の人権問題』『中国の軍事的脅威』云々は後付けの理屈」と見なしてることが窺えます。

 中国とロシアの関係がじわじわと再び接近するのは、ロシアが「ソ連」という国名もろとも共産主義を捨てて、ロシアにもどり、中國では革命の先達*3が鄧小平*4を最後にほとんど世を去り、習近平がトップの座に座って*5以降である。

 「えー、そうか?」ですね。「1989年の中ソ国交正常化」以降は基本的には中露関係は「友好関係」ではないか。
 「中露友好」でググる中露善隣友好協力条約 - Wikipedia(2001年に江沢民国家主席プーチン大統領が締結)もヒットします。習氏のトップ就任以降「中露友好が進んだ」と見なす根拠は何なのか?

 ロシアのプーチンと中国の習近平はともに自らに転げ込んだ*6支配者の地位を他人に渡すまい*7とする点で大きな一致点を持ったがゆえに、互いに親近感を強めあったと思われる。

 プーチンも習氏もそんな私的感情(親近感)で政治をするほど甘くはないでしょう。政治とはもっとシビアなもんです。
 国益判断から交遊しているに決まっている(その国益判断の是非はともかく)。

 プーチンウクライナを屈服させて配下に組み敷くことに成功すれば、中国の台湾統一は当然というムードの醸成に役立つと見た習近平プーチンに肩入れするのは当然の成り行きであろう。

 「はあ?」ですね。
 「和平提案(その是非はひとまず置きます)」を中国がしたことで分かるように、中国は明らかに「ロシアの類友」と見られることを嫌っています。
 中国としては1)ロシアとの間のいろいろなしがらみ、利権があるが故に「プーチン政権崩壊*8→中露関係の悪化」を望まないが、2)とはいえ、ウクライナ征服など無理という観点の元、プーチン政権崩壊という中国にとって「最悪の事態」を避けるために「何とか停戦ができないか」と言う立場ではないか。少なくとも「ウクライナ征服ができれば台湾軍事侵攻に乗り出せる」等とは考えてないでしょう。
 まず第一に「ウクライナ征服の可能性が低い」し、第二に「ウクライナと台湾は違うから」です。「ウクライナ戦争がロシア優位になれば、台湾侵攻も可能になる」という因果関係にはない。
 例えるなら「トラウトマン和平工作でのナチドイツ=今の中国」ではないか。なお、是非はともかく「BRICSでつながりがあるブラジル、インド、南ア」「ソ連時代からのしがらみがある北朝鮮ベトナムラオスキューバ」なども「ロシアには融和的」であり、何も「国益判断」からロシアに融和的なのは中国だけではありません。
 それはともかく中国の和平提案については
中国、ウクライナ和平交渉の促進役は可能=ボレルEU上級代表 | ロイター2023.4.1
という「田畑とは違う」好意的反応もある。
 勿論こうした好意的反応(ロシアに甘すぎるように思うが、和平提案には一定の評価ができる)が何処まで信用できるかは疑問符がつきます。単にウクライナを有利にするための「中露分断狙い」かもしれない。しかし単に「中露分断狙い」だとしても、「中露の分断はあり得ない」と見なしてるらしい田畑とはかなり認識が違うと言えるでしょう。

*1:米国大使などを経て外相

*2:米国のこと。しかし中国も「虎穴に入らずんば虎子を得ず」「前門の虎、後門の狼」「虎の威を借る狐」と虎を使った故事成句が沢山ありますね

*3:例えば八大元老 - Wikipedia(鄧小平を含む)のことか。八代元老の大部分は鄧小平(1904~1997年)と同時期、あるいはもっと早い時期に死去していますが例外として、薄一波(1908~2007年、周恩来内閣で副首相)は鄧小平よりかなり後に死去しています。

*4:1997年死去

*5:習氏の「党総書記就任」は2012年11月、「国家主席就任」は2013年3月

*6:「手に入れた」ではなく「転げ込んだ」とまるで「リクルート疑惑で、安倍幹事長、宮沢蔵相(後に首相)など派閥ボスが謹慎を余儀なくされたため首相の座が転げ込んだ海部首相」みたいな表現を田畑がする理由が謎です。

*7:何も習氏やプーチンに限らず「支配者の地位を進んで渡したがる人間」も少ないでしょう。仮に引退する場合でも「後継指名」などで影響力を残そうとする場合が多い。

*8:まあ「プーチンの大統領辞任」でも「ポストプーチンはメドベージェフ(元大統領、元首相で現在、ロシア安全保障会議副議長(議長はプーチン)、与党「統一ロシア」党首)などプーチンに近い人物で中露関係に大きな影響はない」とか「反プーチン勢力に政権交代しても中露友好関係に影響がない」のなら中国はそれでもいいのでしょうが。