今日の中国ニュース(2021年11月18日分)

上田多門氏「『技術流出論』は日本の中国に対する誤解によるもの」--人民網日本語版--人民日報

 日本メディアで最近、なぜノーベル賞級の科学者が中国に行ってしまうのかを問う報道が広く注目されていると聞いている。最近、私もTBSテレビの取材を受けた
 5年ほど前に、中国の大学から専任で来てほしいと言われたが、その時はまだ迷いがあった。しかし、2年前に再び中国に来た時には、すでに状況が変わったとはっきり感じた。
 深圳大学の研究環境は非常に素晴らしく、日本の大学が揃えられない先進的な設備があり、周りの研究チームの資質も非常に高い。日本国内には今でも先端技術の中国流出を懸念する論調があるが、実際には、少なくとも私がよく知る土木分野においては、研究設備においても、いくつかの研究分野の成果においても、中国はすでに日本をリードしている。
 いわゆる「技術流出論」というのは、日本が中国を誤解しているのだと思う。
 中国の大学は世界から優秀な人材を招聘しており、その中でたまたま優秀な日本の科学研究者が見つかったということにすぎない。彼らが中国に来る理由は様々だが、それは最良の選択をしたら中国だったということであり、多くの人材が米国を選ぶのと変わらない。
 中国で土木分野を研究する場合、日本政府が支給するより多くのプロジェクト経費をもらうことができ、私が興味を抱いている研究テーマは中国でのほうが実現しやすい。ということであれば、研究環境がより良い国に行きたいのは当然の成り行きだ。
 2019年に北海道大学を退職し、深圳大学の専任になった。給与は以前より手厚くなり、好きな研究にも打ち込める。中国に来る機会に恵まれてとても幸運だったと感じている。
 現在、若手の学者が日本国内で仕事を見つけるのは難しい。これは日本全体が直面している問題だ。日本は博士の学位を増やす政策をとったが、それと連動した研究者の就職先は増えていない。私が勤務していた北海道大学のようなトップレベルの大学でも、専任教師のポストはかえって減っている。多くの若手の日本人学者にとって、中国の大学で働ける機会があるのなら、それはとても幸運なことだ。

 まあ、そういうことなんでしょうね。日本が「研究費を増やすなど学者の待遇を改善すべき話」です。
参考

なぜ科学の重鎮たちは中国を目指すのか「頭脳流出」だけでは語れない実態|TBS NEWS
 なぜ、日本の科学者は中国に渡るのか。2年前、深圳大学に拠点を移したコンクリート工学などの専門家、上田多門教授(67)に疑問をぶつけてみた。
 北海道大学名誉教授でもある上田氏は、100年を超える歴史のある土木学会の次期会長にも内定している。日本の土木界のまさに重鎮だ。
 そもそも上田教授は、なぜ中国に拠点を移そうと決断したのか。返ってきたのは「北海道大学で65歳の定年が迫っていたことがきっかけ」というシンプルな答えだった。上田氏は、まだまだ研究を続けたいと思っていた。しかし日本には定年後も研究を続けられるような環境は無かった。その時、深圳大学からの誘いがあったので決めたというわけだ。タイの大学などからも声はかけられたものの、深圳大学は研究環境の良さで抜きんでていたことも大きかった。今、上田さんのもとには日本の大学では揃えられない規模の実験装置や、日本では購入できなかった高額な装置が並んでいる。周囲の研究者たちの質が高いことも大きな理由の一つとなったという。
◆“科学技術強国”目指す中国、霞む“科学技術立国”日本
 上田教授の言葉のように、中国の大学の優れた設備と優秀な人材は日本など海外の科学者を惹きつけるには十分だ。その充実した研究環境を支えているのが、右肩上がりの中国の研究開発費である。日本の文部科学省直轄の研究機関のまとめによると、中国の研究開発費は2000年からの20年間で約13倍に拡大、主要国の中で最も伸びている。2019年は日本円で約53兆円、前年比10.8%増だ。トップの座はアメリカ(63兆円)が守り続けているが、確実に迫っている。習近平指導部は科学技術力の強化を掲げていて、この勢いは今後も続くだろう。
 これに対し日本の研究開発費はほぼ横ばいで、2019年は約19兆円と中国の3分の1程度にとどまった。そして気になることに、研究者の卵である博士課程進学者の減少にも歯止めがかかっていない。欧米や中国では博士課程在籍者には所属研究室から給料が支払われる仕組みとなっているが、日本はいまだに授業料を大学に支払うシステムで、かねてより問題視されている。浮かび上がるのは、この20年間で相対的に地位が低下し、霞んでいく「科学技術立国」の姿だ。
 ところで、上田教授たちのような科学者の中国への移籍をめぐっては「頭脳流出」などと批判的な論調も目立つ。本人は、こう反論する。「土木の分野について言えば、日本にとって不利になるというようなことはない。既に中国に追い抜かれている面も多く、中国と一緒に取り組むことで、日本にはない技術を日本に還元できることの方が大きい」。
 土木の分野では既に20年前から中国の大学の設備の方が日本よりも優れ、研究が進んでいることを上田教授は感じてきたのだという。
 また上田教授は、海外に移籍した科学者が日本の大学と国際共同研究を行うことで研究の質を上げることにも繋がると指摘。各国の研究の実力の指標とされる「論文の引用数」で日本の順位は低下しているが、海外とのネットワークの構築が世界での評価の向上にも貢献しうる、というわけだ。


ドイツは過剰な中国依存を改善すべき=独保健相 | ロイター
 「どこの国にも非常識な反中国右翼ってのはいるんだなあ」が率直な感想です。


リベラル21 19期六中全会の概略はどんなものか(阿部治平)

 もし習氏のねらいが、「歴史決議」において、自らの地位を毛沢東並みにあげるところにあったとすれば、それに対するかなり強い抵抗があり、成功しなかったと言えよう。

 まあ普通に考えて、習氏は最初からそんなことは考えてないでしょう。理由は簡単で「習氏(1953年生まれ)より高齢」とはいえ、江沢民(1926年生まれ)、胡錦濤(1942年生まれ*1)という「元国家主席」は未だ健在だからです。

 習近平主席が歴史的英雄の地位を求めて挑まなければならないのは台湾統一である。これは中共最大の課題であり、これを成功裏に勝ち取れば、習氏は間違いなく(ボーガス注:建国の父)毛沢東・(ボーガス注:改革開放の父)鄧小平に並ぶことができる。以後、どんな戦略が展開されるか注視したい。

 もし阿部やリベラル21が「習氏が在任中、軍事侵攻などの強引な手段を用いても台湾統一を図る」と考えてるのなら非常識の極みです。
 勿論、習氏は「在任中に可能なら台湾統一をしたい」でしょう。しかし無理はしないでしょうね。
 習氏の路線も基本的には鄧小平なら歴代幹部と同じ『台湾独立宣言だけは絶対に阻止』でしょう。それさえ維持できれば「実際の統一は将来の課題。ポスト習での統一でも一向にかまわない」でしょう。
 そもそも「毛、鄧に並んだ」とはいえないまでも「一帯一路(2014年に提唱)」「AIIB設立(2015年)」「香港国家安全維持法による香港デモ封じ込め(2020年)」などで既に習氏は「歴史的英雄の地位」を確立しています。
 なお、阿部はなぜか触れませんが、決議においては

中国が習近平国家主席を「毛沢東と並ぶ指導者」決議した納得の理由。「個人崇拝の強化」説はまったくの的外れ | Business Insider Japan岡田充
 中国では資本主義顔負けの経済格差が肥大化していった。中国富裕層の上位1%による富の占有率は、2000年の20.9%から2015年に31.5%まで上昇。日本やアメリカより大きな格差が生じた。
 アンバランスな発展と歪みが目立つ社会構造にメスを入れなければ、いずれ共産党一党支配への不満が爆発しかねないとの危機感が強まっている。
 「共同富裕」(=ともに豊かになる)は、2021年8月に習氏が打ち出した格差是正を目指す新たなスローガンだ。
 具体的には、日本の固定資産税にあたる不動産税を導入し、株式配当やぜいたく品への課税や公的年金制度の見直しを通じて分配機能を高め、本来の社会主義が目指す「平等社会」を実現しようとする内容だ。

という面が重要でしょう。

◆「鄧小平の改革開放路線」を「中国を豊かにした」とそれなりに評価した上で今後は「格差是正」という方向で大きく修正するための「歴史決議」であり決議にはそれなりの「必要性、合理性」がある。
◆勿論「習主席の権威付けの目的はある」が「権威付けそれ自体が目的である(決議内容それ自体にあまり意味はない)か」のような日本マスコミの主張は間違いではないか?

とする岡田氏には同感ですね。

*1:ちなみに小泉元首相、小沢元民主党幹事長、市田忠義日本共産党副委員長(元書記局長)、温家宝元中国首相が1942年生まれの政治家です。