新刊紹介:「経済」2023年1月号(追記あり)

 「経済」1月号を俺の説明できる範囲で簡単に紹介します。
◆随想『子どものころからの工作』(大橋英五*1
(内容紹介)
 本業は会計学ですが、木工を趣味として木工紹介本『木と遊ぶ』(2000年、柘植書房新社)、『ちいさな宝もの』(2014年、唯学書房)や筆者の木工人形が使われた絵本『森の王さま』(フマユン・アーメド、2012年、唯学書房)といった著書も刊行した筆者が木工の面白さを述べています。


世界と日本
◆韓国最高裁の不法派遣判決:全ての労働者は直接雇用すべき(洪相鉉)
(内容紹介)
 ネット上の記事紹介で代替。

韓国最高裁 現代自・起亜に「社内下請け労働者の直接雇用を」 | 聯合ニュース2022.10.27
 韓国の大法院(最高裁)は27日、完成車大手の現代自動車と子会社・起亜の工場で塗装、生産管理などベルトコンベヤーを直接活用しない「間接工程」で業務を遂行した社内下請け労働者が両社を相手取り起こした地位確認を求める訴訟で、2年以上働いた労働者も元請け企業が直接雇用すべきだとの判断を示し、原告一部勝訴の原審が確定した。


◆ラピダス発足と次世代半導体小林哲也
(内容紹介)
 ラピダスとは

Rapidus - Wikipedia
 2022年8月10日、トヨタ自動車デンソーソニーグループ、NTT、NECソフトバンク、キオクシア、三菱UFJ銀行の8社が総額73億円を出資し、先端半導体国産化に向けRapidus株式会社が設立された

というものですが現時点では「どうなるか分からない」といったところでしょう。
参考

巻き返しなるか日本の半導体産業|サクサク経済Q&A|NHK2022.11.11
 トヨタ自動車ソニーグループなど日本の主要企業8社が出資し、先端半導体国産化に向けた新会社が設立されました。
Q:
 そもそも先端半導体ってなに?
A:
 「ロジック半導体」と呼ばれる高度な計算を可能にする半導体のことです。
 実はこの分野で日本は、海外に10年遅れているとも言われています。「ロジック半導体」は海外からの輸入に依存しているんです。
Q:
 その「ロジック半導体」の分野では、海外のどういう企業が強いの?
A:
 台湾のTSMCや韓国のサムスンアメリカのインテルなどが先行しています。
 先端半導体は「微細化」といって、回路の幅をできるだけ細くして、性能を高める技術が重要です。
 現在の最先端は3ナノメートルの製品で、韓国のサムスンがことし6月に量産を開始しました。
 2025年までにはサムスンに加えてTSMCも、2ナノメートル半導体の実用化を目指す方針を打ち出しています。
 これに対して新会社は、5年後の2027年をめどに2ナノメートル以下の半導体の量産化を目指しています。
Q:
 先行する海外メーカーとの差を少しでも縮めようと新会社を設立したわけだね。
A:
 新会社には▽トヨタ自動車、▽デンソー、▽ソニーグループ、▽NTT、▽NEC、▽ソフトバンク、▽半導体大手のキオクシア、それに▽三菱UFJ銀行の8社が出資しています。政府も研究開発拠点の整備費用などとして700億円を補助することを決めたほか、11月8日に閣議決定された補正予算案にも半導体の研究開発や生産の拠点を整備するための費用などとして、およそ1兆3000億円を盛り込みました。
 官民一体で先端半導体国産化を実現しようと支援を強化しています。
Q:
 でも周回遅れだというのに、日本の企業だけで先端半導体国産化できるの?
A:
 これまで日本の半導体産業では、国内の企業や研究機関が中心となって開発を進め、優れた技術を持つ海外メーカーと十分に連携できなかったという反省があります。
 このため今回は海外のメーカーとの連携を強化することにしています。その一環として、政府はことし6月、茨城県つくば市TSMCの研究拠点を誘致しました。
 さらに7月には、日米両政府による経済版の「2プラス2」にあわせて、次世代の半導体を日米で共同研究するための新たな拠点を国内に整備する方針を表明しています。

 米国インテルや台湾TSMCから技術協力を受けたいという辺り「日本は完全にこの分野では遅れている」わけですが、小林論文も「そう上手くいくだろうか?」としています。当たり前ですが、「日本企業や日本政府との関係に配慮して」一定の協力をするにしても、手の内を全部さらして日本を応援する義理はインテルTSMCにはないからです。それで将来、日本に敗北したらまさに「宋襄の仁」です。商売人はそんなバカなことはしない。「この程度の技術提供なら日本は追いつけないだろう」と見切った技術しか提供しないに決まってる。
 当然ながら「最先端技術(例えば、NHKが紹介する2ナノメートル技術)」ではなく「最先端よりは少し落ちる技術(例えば3ナノメートル技術:さすがにあまりにも古い技術を出すと『日本を馬鹿にするな!』と日本と喧嘩になるので)」しか出さないでしょう。それで日本側も我慢せざるを得ない。「最先端の2ナノメートル技術を出せ」と言って出すわけがない。相手から「日本は厚かましいにもほどがある」「そんなことをして我々に何の得があるのか?」と呆れられるだけです。
 これは日本企業の技術提供(『大地の子』で描かれた新日鉄の中国への技術提供など)だって、そうだったろうからお互い様です。しかしNHKも書くように日本は既に後れを取ってるのでそうした「最先端より落ちる技術」を提供されてそれを元に果たして追いつけるのかどうか。まあ中国みたいに「1970年代の文革の惨状」から追いついた国(スマホのシャオミ、PCのレノボなど)もあるので何とも言えませんが、普通は「残念ながら望み薄」でしょう。
 小林氏もソニーやキオクシアはともかく半導体メーカーではない「トヨタデンソー半導体部品を使ってはいますが)」の出資については「どこまで本気なのか?(安い半導体が手に入るのならトヨタデンソーにとって国産にこだわる必要性が乏しいので)」「経産省日本経団連に頼まれて渋々ではないか?」と疑問視しています。
 で、話が脱線しますが世の中なんてのはそんなもんです。「自分が得にならないことをするお人好し」はまずいない。
 拉致問題だって「無条件で返せ」と言って返すわけがない。バーター取引以外に現実的解決策はないでしょう。「北朝鮮は汚い」「誘拐犯がふざけるな」と罵倒してもどうしようもない。正直、俺だって愉快ではないですが、現実は認めざるを得ない。


特集「ロシアのウクライナ侵略と激動の世界 」
ウクライナ侵略の行方と世界の動き(森原公敏*2
(内容紹介)
 赤旗の記事紹介で代替。

検証 ウクライナ侵略半年 日本共産党の平和の論陣/「国連憲章守れ」貫く/価値観で二分するな 世界の良識と共鳴2022.8.24
 米国のバイデン大統領は3月2日、米国政府の一般教書演説で、ロシアを激しく批判するも、「国連憲章」を一度も引くことなく「民主主義対専制主義のたたかい」というスローガンを押し出しました。
 これに対し、志位氏は、プーチン政権が専制主義的な政権であることは間違いないとしながらも、「今問われているのはあれこれの『価値観』ではありません。あれこれの『価値観』で世界を二分したら、解決の力も、解決の方向も見えなくなってしまうのではないでしょうか」と指摘。「いま大切なのは、あれこれの『価値観』で世界を二分するのではなく、『国連憲章を守れ』の一点で世界が団結することではないでしょうか」(4月29日、大学人と日本共産党のつどい)と訴えました。

 専制国家が軒並みロシアに同調してるわけでもなければ、逆に「民主国家でもロシアに融和的な態度の国(BRICSで経済的関係のあるブラジル、インド、南ア)もあること」「米国やウクライナの関係を重視し、比較的ロシアに批判的なドイツですら未だにロシアの天然ガスを購入してること」を考えれば志位氏の指摘「民主VS専制というバイデンの言明は事実に反する」には全く同感です。
 しかし、ウクライナ戦争も「先が見えない戦争」の感がありますね。ロシアは苦戦してはいるものの、ウクライナから早晩完全撤退するとはとても思えない。そこまでの攻め手をウクライナが欠いてるのは事実でしょう。NATOの軍事支援を受けているとは言えウクライナにはそれほどの軍事力はない。一方、NATO諸国(米英仏独など)も「NATO軍をロシア軍と激突させる」ほどの思い入れはない。正直NATO軍精鋭部隊を躊躇なくぶち込めば、ロシアが全面撤退する可能性もないではないでしょう。追い詰められたロシアが「恫喝」ではなく、「死なば諸共」で、マジでABC兵器(核、化学、生物の大量破壊兵器)を躊躇なくNATO軍に使い、大量の死者発生という最悪の事態を恐れてそれがNATOにはできないわけですが。
 この点は

全土奪還は難しい?米国から停戦交渉を促す声 ウクライナは否定的:朝日新聞デジタル
 ウクライナに、ロシアとの停戦交渉を促す声が、米国内で表面化している。背景には「全土奪還」の現実的な見通しの厳しさや支援疲れがある。
「ロシアは多くの死傷者を出し、戦車や戦闘機も大量に失っている。交渉は自分が強い立場にあり、相手が弱っているときに行いたいものだ」
 米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は16日、国防総省での記者会見でこう述べた。

と言う報道でも明白です。
 制裁も「一定の効果はある」が、プーチンに停戦を決意させるまでには至っていない。一方でゼレンスキーも「最低限、2月のロシア侵攻前までには戻さないといけない」としている。それどころかウクライナ強硬派に至っては「2月のロシア侵攻前ではもはや論外。クリミアを含むウクライナからのロシア全面撤退」を言い出してる。このまま「ロシア全面撤退どころか停戦すらできずに、泥沼の戦争がしばらく続く(ロシア、ウクライナ両国民の人命がいたずらに失われる)」と言うのが一番現実性がありそうで、かつ困った展開ではあります。森原氏も「ロシアの無法は許されない」「ウクライナ国民の意思が重要視されるべき」とはしていますが、「これが答え」というものは当然提出はしていません。「俺や森原氏のようなウクライナ戦争による死の危険がない人間」が安全地帯からウクライナの徹底抗戦を主張するのも無責任ですが、一方で「ロシアの無法ぶり」と「それに対するウクライナ側の反発」を考えると「早期停戦」も言いづらいものがある。何せゼレンスキーだけでなくプーチンも「停戦に後ろ向きな発言」ですし。
 その点、森原氏も当然悩みがあるでしょう。
 とはいえ、俺的には「ロシアの無法は許されない」ものの「このまま泥沼戦争を続けていいのか」「あえてウクライナ側は停戦に打って出るべきではないか」とも思えます(これは俺の見解であって共産党や森原氏の見解ではありません)。これも「すぐには決着がつきそうにない」と言う面が大きいですね。すぐにロシアが負ける見込みが大きいのであれば俺も「徹底抗戦支持」で悩みはしません。多分俺レベルでもid:kojitaken的には「ロシアシンパ」なんでしょうが「安全地帯から徹底抗戦を叫ぶkojitakenのような輩」は単に無責任なだけでしょう。


◆ロシア侵攻と気候危機(伊与田昌慶)
(内容紹介)
 架空問答形式で書いてみます。なお、
1)

【岸田政権考】「大東亜戦争」が消えた岸田政権 - 産経ニュース*3
 2月から始まったロシアによるウクライナ侵攻を「ウクライナ戦争」と呼べば、ウクライナの内戦のように受け止められてしまう

等が指摘するように「ウクライナ戦争」では内戦のようだ、2)「ウクライナ侵攻」ではウクライナが侵攻してるようだ(勿論、予備知識があればそうした誤解はあり得ませんし、その程度の知識もない人間はまずいませんが)との認識から伊与田氏は論文において「ウクライナ戦争(あるいはウクライナ侵攻)」と呼ぶことを避け、ロシアの侵略性を強調するために「ロシア侵攻(ロシアのウクライナ侵攻)」と呼ぶことを表明しています。
Q:
 ロシア侵攻が気候危機(地球温暖化)に影響を与えてるそうですが?
A:
 石炭や石油に比べ、CO2排出量が少ないと言うことで欧米の多くの国が石炭、石油からLNGに移行していました。そしてそのLNGの一大産地がロシアだったのですが「ロシアへの制裁→LNGからの脱却(あるいはLNGを購入する場合でもロシア以外からの購入)」が進みつつあります(後述しますが完全にロシアから脱却したわけではありません)。
 ロシアの侵攻を辞めさせるには制裁は不可避だと思います。また、LNGも「石炭や石油に比べればCO2排出量が少ない」とはいえCO2は排出するので「CO2を排出しない再生可能エネルギーへの移行」は望ましい。
 ただ、問題は「実際に行われてる」LNGからの脱却方向です。実際の移行方向は必ずしも「再生可能エネルギー(太陽光、地熱、潮力、風力など)」ではないのです。
Q:
 どういうことですか?
A:
 移行方向の一つ目は「(ロシア以外の国からの)石炭、石油への移行」です。確かにこれは容易な方法ですが、これではかえってCO2が増加します。
 移行方向の二つ目は原発推進です。原発が「CO2削減につながるかどうか自体」に疑問があるのですが、仮につながるとしても「被曝労働」「原発事故」の問題を考えれば原発推進は適切ではありません。
 なお、「ロシアから脱却しつつある」とは言いましたが完全に脱却しているわけではないことも指摘しておきます。
 例えばドイツなどは未だにロシアからLNGを購入しています(ノルドストリーム)。
 それは

ロシア産原油、価格上限60ドル発動へ 制裁効果に疑問符: 日本経済新聞2022.12.3
 ロシア産原油の輸入価格に上限を設ける主要7カ国(G7)の制裁が5日に発動する。欧州連合EU)は2日、上限を1バレル60ドル(約8000円)とすることで合意し、G7も足並みをそろえる。

でも明白でしょう。上限60ドルで「制裁として効果があるか(コストは60ドルを下回ってる)」と言う指摘がありますが、それ以前に「全面禁輸すればそんな議論は不要なところ」、全面禁輸に踏み切ることがG7にはできないのです。
 「欧米の制裁措置」に追随し、撤退の可能性も指摘されましたが、結局、日本政府、企業(三井物産三菱商事など)もサハリン2開発から撤退しませんでした。
 あげく

ロシア産原油、価格上限60ドル発動へ 制裁効果に疑問符: 日本経済新聞2022.12.3
 西村康稔経済産業相は25日の閣議後の記者会見で、ロシア産原油の価格に上限を設けて輸入を制限する措置について、主要7カ国(G7)は日本企業が参画するロシアの資源開発事業「サハリン2」で産出される原油を適用除外にするとの見通しを示した。

と「サハリン2を60ドル上限の対象から外してくれ」と言い出す有様です。こんなことで本当に日本を含むG7諸国はロシア軍をウクライナから撤退させる気があるのか。ロシアが撤退意思を示さないのは明らかにこうしたG7の弱腰にあります。本来ならG7は60ドル上限などと言う生ぬるい手ではなく、全面禁輸に打って出るべきです。岸田政権もサハリン2から即時撤退すべきではないのか。
 「サハリン2からの撤退」もせずにウクライナ侵攻を「敵基地攻撃論」「大幅軍拡」の材料にする岸田政権には怒りを禁じ得ません。またマスコミも何故そうした政府批判をしないのか(この点はれいわ新選組鈴木宗男については「ロシアに甘い」と言って批判するkojitakenも「岸田政権はサハリン2から撤退しろ」等とは言わないのだからあの男のロシア批判も本当に怪しい。単に鈴木や山本太郎に悪口するためだけにロシアを持ち出してるだけの「腐れカス」「クズ」がid:kojitakenではないか)。
 まあ「サハリン2=日本財界のLNG、石油利権」「大幅軍拡=日本財界の軍事利権」で「日本財界の利権に奉仕するのが岸田政権」と評価すれば「ある意味一貫しています」が。


◆穀類価格の高騰が止まらない(山田優
(内容紹介)
 架空問答形式で書いてみます。
Q:
 食料価格高騰の理由は何ですか?
A:
 「コロナウイルスの影響(労働力不足など)」「気候変動の影響(作物の不作)」「エコ燃料問題(エコ燃料の原料となるパームやしなどのエコ作物が高く売れるため、エコ作物に転換し、小麦などの食料作物の栽培が減っている→食料不足に拍車)」「穀物飼料問題(中国など発展途上国の経済発展→肉食の普及→今まで人間が食べていた穀物が家畜飼料になる→穀物不足に拍車)」「(日本に限れば)円安ドル高による輸入品価格高騰」などいろいろある(実はウクライナ侵攻以前から食料価格は高騰していた)ので「ウクライナ侵攻だけに注目すべきではない」のですが、一方でウクライナ侵攻が大きな影響を与えてる事も事実です。
 ウクライナ侵攻の影響としては、まず第一にロシアとウクライナは小麦の主要輸出国(一大生産地)です。ロシアは経済制裁で、ウクライナは戦争の混乱で小麦輸出が難しい状態にあります。当然「小麦不足→価格高騰」となります。
 第二に化学肥料の高騰があります。化学肥料の主要原料は窒素、リン、カリウムですが、この三品目の主要輸出国がロシアです(カリウムについては「ロシアの同盟国」ベラルーシも主要輸出国です)。ロシアやベラルーシへの制裁によって両国は三品目の輸出が難しい状態にあります。当然「三品目不足→三品目を原料とする化学肥料高騰→化学肥料を使用する穀物の高騰」となります。
 ロシアと欧米の関係というと「石油、天然ガス」「小麦」が専ら指摘されますが、「窒素、リン、カリウム」についても注目して欲しいところです。
Q:
 食料価格高騰にどう対処すべきでしょうか?
A:
 根本的には「ウクライナ戦争の早期終戦」「温暖化対策」(勿論これらは世界的課題で日本一国でできることはないですが)「円安ドル高の是正」など「食料価格引き下げ」ですがそれは残念ながらすぐにできることではないでしょう。当面は「経済的弱者」への「国や自治体の支援」が不可避でしょう。勿論これは「物価高騰」がなくてもすべきことですが、物価高騰の今はなおさらそうです。
 「家庭の事情で食事もとれない子どもが増えてる」と言われる昨今、学校給食の全面無償化にも今こそ取り組むべきではないでしょうか。


◆途上国からみる現代世界:独自路線をいくインドの国際戦略とは(和田幸子*4
(内容紹介)
 インドの独自路線とは「クアッド(日米豪印がメンバー)に参加する」など親米を基調としながらも一方では「中印国境紛争(中ソ対立の影響からソ連がインドを軍事支援)」「印パ国境紛争(ソ連はインドを軍事支援し、中国はパキスタンを軍事支援)」からの「しがらみ」もあって「ウクライナ侵攻での国連総会ロシア非難決議」で棄権するなどロシアに融和的な態度を取ってることです。
 インドはクアッド参加メンバーである一方で「上海協力機構(中国、ロシア、カザフスタンキルギスタジキスタンウズベキスタン、インド、パキスタン)」「BRICS首脳会議(ブラジル、ロシア、インド、中国、南ア)」メンバーでもあります。
 なお、和田論文の「副題」は「インド」で、インドに主に焦点が当たっていますがが「主題」が「途上国」であることにも注目しましょう。
 途上国(アジア、アフリカ)の多くは、1)ロシアのよう兵がアフリカで活動か?現地では | NHK(2022.7.11)、“親ロシア”広がるアフリカでいま何が?傭兵部隊ワグネルが暗躍? | NHK(2022.10.28)など(NHK記事ではマリとブルキナファソを紹介)でわかるようにインド同様にロシアと経済的関係などしがらみがある、2)ロシア同様の人権問題を抱えており、気軽にロシア批判できない、3)「イスラエルパレスチナ弾圧、エジプトの軍事独裁など親欧米国家の無法」を欧米は容認しながら何が国際正義か、単にロシアが反欧米、ウクライナが親欧米だから、ロシアと対決しウクライナを支援してるだけではないかと言う不信を持ってるなどの意味でG7諸国ほどロシアに否定的ではありません。
 さすがにウクライナ侵攻非難決議に反対したのはロシアを含めて5カ国(エリトリア北朝鮮、シリア、ベラルーシ)に留まりましたが、棄権した国はインドなどを含め35カ国(国連総会のロシア非難決議 反対・棄権は計40か国 | NHK | ウクライナ情勢参照)とかなりありました。もちろんこうしたことを「下手に強調する」と「インド、ブラジル、南アなど民主国にもロシア宥和派がいる、アジア、アフリカにはロシア宥和派が多いなどとしてロシアを擁護するプーチンシンパ」と誤解される危険性はありますが、こうした「ロシアに有利でウクライナに不利な事実」を全く無視するkojitakenにも困ったもんです。
 つうか「ロシア擁護」で「鈴木宗男やれいわ新選組」を批判するのも結構ですがkojitakenは少しはインドなどの「対ロシア融和路線」を批判したらどうなんですかね。これは何もkojitakenに限らず、「日本の多くのロシア批判派」に共通することですが。
 なお、こうしたインドの「ロシアへの甘さ」あるいは逆に「クアッド参加(米国への接近)」には「国父(初代首相)ネールの非同盟主義はどこへ?」と言う批判があることは、和田論文も指摘している点ですが、これに簡単に触れておきます。非同盟主義を高く掲げた時代から、インドは「印中国境紛争」「印パ国境紛争」でソ連(当時、中国と対立)の支援を受けており、インドの非同盟主義はそもそも「カギ括弧付き」というか、問題含みだったのですが、モディの場合、「ネールの国民会議派」ではなく、「国民会議派を批判するインド人民党」なので「非同盟主義」へのこだわりはあまりなかったと言えます(例えばモディ印首相、「非同盟」と距離か 首脳会議欠席 日米との連携反映(1/2ページ) - 産経ニュース(2016.9.15)参照)。この点、「イフの話はしても仕方がない」のですが「国民会議派政権ならここまでロシアに寛大だったか?」という声もあるようです。
 なお「話が脱線します」がモディと「国民会議派」の違いとしては以前も別記事で書きましたが「ヒンズー教への態度(裏返せばイスラムへの態度)」があります。イスラムとの融和に努めてきた国民会議派に対し、モディのインド人民党がヒンズー優遇を進め、党内には「ガンジー暗殺犯を美化する極右勢力」までいることは国内外から問題視されています
【参考:インドのヒンズー過激派】

ナトラム・ゴドセ - Wikipedia
 2014年、インド人民党が政権に就くと、ヒンドゥー大連盟はゴドセの復権を試み、彼を愛国者として讃えるようになった。ヒンドゥー大連盟はナレンドラ・モディ首相に、ゴドセの胸像を設置するよう求めた。2015年1月30日、ドキュメンタリー映画『Desh Bhakt Nathuram Godse』(「愛国者ナトラム・ゴドセ」の意)が、ガンディー暗殺の日にあわせて公開された。

ガンジー没後70年 くすぶる暗殺者崇拝 非暴力「消えつつある」(1/3ページ) - 産経ニュース2018.2.1
 1948年1月30日の暗殺から70年の時を経て、狂信的なヒンズー教徒だった暗殺者を崇拝する動きが小さくだが、広がりつつある。(ニューデリー 森浩)
 ひとつの動きは暗殺者崇拝だ。昨年11月、インド中部マディヤプラデシュ州で、あるヒンズー教寺院の建立計画が持ち上がった。ガンジーを射殺したナトゥラム・ゴードセーをまつる施設だ。
 最終的に寺院は州当局によって開設を認められなかったが、主導したヒンズー至上主義団体「全インドヒンズー連盟」のプラカシュ・コシク代表は、取材に「ガンジーイスラム教徒に譲歩し続けた。そのことがパキスタンの分離独立を招いた」とし、「ガンジーは非暴力を説くことでヒンズー教徒を弱体化させたかった」とまで言い切った。
 ゴードセーは、カースト最高位のバラモンの家系に生まれた敬虔なヒンズー教徒で、ヒンズー至上主義団体「民族義勇団」(RSS)に所属していた。RSSは現在の国政与党インド人民党(BJP)の支持母体で、モディ首相も青年期に入団していた。
 融和からは遠いといえるのが、牛を神聖視するヒンズー教徒がイスラム教徒など少数派の宗教の信者を襲撃する事件だ。インドのジャーナリズム市民グループ「インディアスペンド」によると、2010年から17年6月までの間に60回の牛肉(水牛を含む)に関連した襲撃事件があり、25人が殺害され、事件の大半がモディ政権が発足した14年5月以降に起きていた。

【参考:モディと非同盟主義

モディ印首相、「非同盟」と距離か 首脳会議欠席 日米との連携反映(1/2ページ) - 産経ニュース2016.9.15
 インド政府は14日、ベネズエラで17日に始まる非同盟諸国首脳会議に、モディ首相ではなくアンサリ副大統領が出席すると発表した。インドは、東西冷戦時にいかなる軍事ブロックにも加わらず中立主義を目指した会議の創設メンバー国で、実権を持つ首相が出席しないのは、本格政権としては初めて。冷戦が終結し、中国の軍事的脅威が高まる*5中で、安全保障や経済で米国や日本との関係を強化するモディ氏の外交姿勢を反映した決定となった。
 モディ首相は、全方位外交から一歩踏み出し、中国に対抗するため、日米との協力を深化。米印海上共同訓練「マラバール」への日本の正式参加が決まり、日本の救難飛行艇「US2」の輸入へ向けた協議が進んでいる。

ウクライナ侵攻を非難しないインド 「非同盟」思考から脱却を | JAPAN Forward(2022.3.19)岩田智雄(産経新聞大阪編集長)
 インドの官僚が金科玉条のように唱えてきたのは、非同盟以来の「全方位外交」だ。常に西側諸国と中露の間でバランスを取ろうとする。モディ氏は首相就任時、こうした時代遅れの政策にとらわれない政治判断を見せたが、近ごろは旧態依然の官僚の発想に引きずられている。自国を世界最大の民主主義国家と自任するなら矛盾しない行動を示してほしい。

 産経らしいトンチンカンぶりですが、モディの態度は「インドの国益につながるなら何でもやる、ロシアとも付き合うし、米国とも付き合う(ロシアから安い原油を購入する、ロシアを対中国カードとして牽制に使うなど)」という露骨な「パワーポリティクスの論理」「理念より現実的利益を優先」であって、「全方位外交」とも「非同盟主義」とも全く関係ないことは「経済今月号の和田氏」「伊藤防衛大学校教授」など多くの識者が指摘しているところです。
【参考:インドの対ロシア外交】

「盟友」ロシアのウクライナ侵攻に苦悩するインド | 記事一覧 | 国際情報ネットワークIINA 笹川平和財団2022.3.24(伊藤融(とおる)*6防衛大学校教授)
 ロシアはインドにとって冷戦期以来からの「時の試練を経た」伝統的友好国であり、戦闘機や空母から自動小銃に至るまでのさまざまな兵器、また原子力を含むエネルギー分野でも長年深い協力関係を構築・維持してきた。さらにロシアはソ連時代から国連をはじめとした多国間の枠組みで、カシミール問題や核問題、安保理改革など、つねにインドの味方になってくれる頼りになる大国であった。
◆インドの誤算と退避の遅れ
 じつは開戦前のウクライナには、2万人以上ものインド人が暮らしていた。そのうちの9割が現地で医学系の大学に通う学生である。ウクライナは、比較的安価で医師の資格を取得できるとしてインド人には人気の留学先の一つだったからである[4]。
 1月下旬ごろになると、ウクライナ情勢が緊迫の度を高めていることは世界で報じられ、米英などは大使館員を含めて退避を始めていた。にもかかわらず、インドは「事態を注視する」という姿勢に終始し[5]、やっと2月15日になって「学生など不要不急でない」インド人に対して、一時退避を「検討」するよう勧告するという渡航情報が発出された[6]。ところが、そもそもインドとウクライナを結ぶ航空便は数少なく、政府の要請でエア・インディアが22日に最初の商用便を運航させ、254名が帰国したものの、24日にデリーを飛び立った第二便は開戦によって引き返さざるをえなくなった[7]。こうしたことから鑑みるに、外務省を中心にインド政府は、それまでのロシア側の説明を信じ、プーチンが開戦に踏み切るとは思っていなかったものと思われる。
 初動の遅れには国内でも批判の声が上がった[10]。
◆「非難」を避けつつロシアへ不快感を示したインド
 退避の遅れとは対照的に、ロシアの「侵犯」に対するインドの外交上のスタンスについては、野党、メディアの大半は、モディ政権の対応に概ね理解を示している。現在、国連安保理非常任理事国議席をもつインドは、1月31日、危機が高まるなか、「静かで建設的な外交」が求められるべきだと主張して、ウクライナ情勢を議題とする公開会合開催の是非をめぐる投票を「棄権」した[11]。この姿勢は2月11日にメルボルンで開かれたクアッド(日米豪印)外相会合でも貫かれ、ウクライナ情勢についても話し合われたものの共同声明には一切盛り込まれなかった[12]。このように、インドはロシアとウクライナの対立を多国間の場で取り上げることには消極的な姿勢を取っていた。
 しかし、(中略)2月21日、ロシアがウクライナ東部の親ロシア派支配地域、ドンバスのドネツクとルガンスクを「国家」承認すると発表すると、急遽開催された安保理でインドは「深い懸念」を表明してロシアへの不快感を示した[13]。さらに軍事侵攻が開始されたことでロシアへの国際的批判が強まるなか安保理に非難決議案が提出されると、インドはここでも「棄権」票を投じたものの、その「投票説明」のなかでは、情勢の急転に「非常に困惑している(deeply disturbed)」とし、「外交の道が放棄されたのは遺憾である」と述べ、ロシアへの失望を隠さなかった。
◆深まるクアッドとの溝
 それでも、西側にはインドが、国連の安保理、総会、人権理事会、国際原子力機関(IAEA)での一連のロシア非難決議案をことごとく「棄権」したことへの不満が広がっている。ミュンヘン安全保障会議等のため2月中旬から訪欧したジャイシャンカル外相には欧州各国から方針変更への働き掛けがあり[16]、米国もブリンケン国務長官を筆頭に決議案に賛成するよう説得の「努力を惜しまなかった」とされる[17]。にもかかわらず、結果的にみれば、中国の脅威に対して近年、クアッドの枠組みなどで民主主義国としての連携を深めてきたインドが、今回、中国などと同様の投票行動を取り、権威主義のロシア・プーチン政権への包囲網に加わろうとしなかったことは失望をもって受け止められている[18]。国連総会後に急遽開かれた3月3日のクアッド首脳テレビ会合でもモディ首相の姿勢は変わらず、共同文書にはロシア非難どころか、ロシアへの言及さえなかった[19]。
 米国をはじめとする西側、とくにクアッドの連携強化に積極的であったモディ政権をもってしても、ロシアとの関係を切り捨てられないのはなぜか。依然としてロシアへの兵器依存度が高いことや、中国やパキスタンとの問題で、拒否権をちらつかせながら安保理でインドに有利な行動を取ってくれることへの期待、あるいはロシアとの歴史的絆といったことが、わが国のメディアや専門家からは指摘されている[20]。もちろんそれは間違いではない。しかしそうした事情は、いまに始まった話ではなく冷戦期からのものである。今日ではむしろ兵器調達先も米、仏、イスラエルなど多角化が進んでおり、政治・外交の面では、印米関係は冷戦期と比べると飛躍的に緊密化している。すなわち、インドにとってのロシアの戦略的価値はかつてと比べて相対的に言えば低下している。選択肢の増えたインドはロシアに対して頭が上がらない状況ではもはやない。にもかかわらず、なぜ「棄権」だったのか。
 筆者は、ネルー大のハッピモン・ジェイコブが指摘するように、インドはロシアの圧力に屈したのではなく、自らの利益の見地から行動したものと捉えている[21]。いまだ続く中国による(ボーガス注:カシミール問題での)実効支配線への攻勢やパキスタンによるテロ攻撃を踏まえれば、「(ボーガス注:ロシアのウクライナ侵攻のような)力による一方的な現状変更の試み」は認めないという原則を主張することはもちろん大事である。しかしそれ以上に、インドが直面する(ボーガス注:カシミール国境紛争で対立する中国やパキスタンという)「陸上の」脅威を考えたとき、クアッドや欧州は(ボーガス注:冷戦時代から付き合いがあるロシアと比べ)信頼できるパートナー足りうるのであろうか。インド国内の論調をみると、米国とNATOアフガニスタン撤退、それに伴い中パと関係の深いタリバン*7復権したことは、そうした疑念をインドに強く抱かせたように思われる。クアッドの他のメンバーはいずれも「海洋国家」であるが、インドは「大陸国家」でもあり、そこには大きな関心のずれがある。
 アフガニスタンで示された米国の意思と能力の後退、もっぱら海洋に焦点をあてるクアッドの実態を踏まえれば、中国がパキスタンやその他の周辺国を巻き込んでインドへの攻勢を強めるなか、地政学的にみてもロシアというカードを放棄する余裕はインドにはない[23]。
 もっとも、インドの今回の選択は、現状では合理的であるとしても、今後の展開によっては不透明さもはらむ。ロシアの攻撃が一層激化、長期化し、人道上の被害が広がっても、またロシアがウクライナの政権を転覆*8したり、一部を占領した場合でも、ロシアへの非難や制裁に加わらないでいることは、「世界最大の民主主義国」として可能だろうか。あるいは今回の戦争を機にロシアが弱体化し、結果的にロシアの中国依存が深まった場合には、印ロ関係のもつ意味合いが失われてしまうのではないか。しかし米国やクアッドだけに頼ってもインドの安全と国益は確保できない[25]。ロシアのウクライナ侵攻は、インドに堂々巡りの難題を突き付けている。

ロシアの弱体化は「最悪のシナリオ」 インドが恐れる戦争後の世界:朝日新聞デジタル2022.9.26
 ロシアによるウクライナ侵攻後、独自の立場をとり続けているのがインドだ。日本や米国との関係を強化しようとする一方で、欧米による対ロシア制裁には参加せず、侵攻後にロシア産原油の購入も増やしている。インド外交や南アジアの国際関係を研究する防衛大学校の伊藤融(とおる)教授は、「インドにとって、ロシアの弱体化は最悪のシナリオ。インドが対ロシア制裁に参加する可能性は極めてゼロに近い」と言う。
◆記者
 9月16日にインドのモディ首相はロシアのプーチン大統領と会談し、「今は戦争の時代ではない」と苦言を呈しました。インドはこれまで、ウクライナ情勢でロシアを名指しして批判してきませんでした。立場が変わったのでしょうか?
◆伊藤
 基本的には変わっていないでしょう。その発言一つをとって、インドの姿勢が転換したと捉えるのは、かなり曲解ではないかと思います。そもそも、インドがロシアを擁護しているというような見方自体も間違っています。ロシアの侵攻を非難する国連の採決で棄権し、西側諸国の制裁に加わってないという点を見れば中立です。
 ロシアに対する苦言は、侵攻当初からしています。当時のインドの国連大使は棄権した際に、「対話が、相違や紛争を解決するための唯一の答えだ」「外交の道をあきらめたのは遺憾だ」と述べ、話し合いの場に戻るよう要請する声明を出しています。これは、モディ氏がプーチン氏に言ったことと大して変わりません。「ロシア離れ」を求める西側諸国の圧力に屈したとも言えません。
 一方で、「今は戦争の時代ではない」というモディ氏の発言は、「インドはロシア寄り」という西側諸国のイメージを、少しでも払拭するという狙いがあったとは言えます。だから、メディアがいる場で、意図的にあのような発言をしたのではないかと思います。
(以下は有料記事です)

ウクライナ、インドのロシア産原油輸入増を批判「非道徳的」 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News2022.12.7
 インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相は5日、欧州はロシア産化石燃料依存からの脱却を目指しているが、いまだに輸入量はインドを大幅に上回っていると主張し、ロシア産原油の割安価格での輸入を正当化していた。
 これに対しウクライナのドミトロ・クレバ外相はインドの民放NDTVで、「欧州も同じことをしている」と主張してロシア産原油の輸入を正当化するのは「完全に間違っている」「非道徳的」だと反論した。
 ロシアによるウクライナ侵攻開始以来、インドは安価なロシア産原油の輸入を6倍に増やし、今ではロシアが最大の原油輸入元となっている。
 インドは、ウクライナ侵攻を原因とする世界的な物価上昇で大勢の貧しい国民が大打撃を受けているため、可能な限り安価な原油を輸入するしか方法はないと主張している。


◆アフリカの食料・人道危機(佐々木優*9
(内容紹介)
架空問答形式で書いてみます。
Q:
 アフリカの食糧危機は「ウクライナ戦争が一因」と言われますが?
A:
 経済今月号の山田優論文も指摘する穀物価格高騰の問題ですね。
 しかしこうした認識は一面の真実ですが「一面の真実でしかない」。
 まず第一に山田論文も指摘していますが、穀物価格高騰の要因は「ウクライナ戦争だけではない」。「温暖化による穀物不作」など他の原因もあります。
 第二に「今回の穀物価格高騰」以前にはアフリカにそうした危機はなかったのでしょうか?
 そんなことはない。ご年配の方ならご存じ*10でしょうが、1980年代には日テレ『愛は地球を救う』で飢餓に苦しむアフリカ支援募金がされました。アフリカの食糧不足には「アフリカが貧乏で食料を買う金がない」「いわゆるモノカルチャー経済によって、飢餓克服に貢献する食料作物(小麦、大豆など)よりも貢献するとは言えない換金作物(エチオピアケニアのコーヒー、ガーナのカカオ豆(チョコの原料)など)が重視される」「独裁的な政府の腐敗で再分配システムが機能してない(政府高官などが食料を独り占めしている)」など多様な側面があります。
 アフリカ食糧危機において、ウクライナ戦争を強調しすぎることはそうした側面を軽視することを助長しかねません。「独裁的な政府の腐敗で再分配システムが機能してない(政府高官などが食料を独り占めしている)」と言う面を考えればアフリカは(庶民はともかく少なくとも政府、支配層は)単なる被害者ではない。
 というか「過去の北朝鮮の飢餓」については日本マスコミも「天候悪化による北朝鮮の不作」で片付けずに「北朝鮮政府の失政」を云々していたと思うのですがね。


◆平和と尊厳、生活向上を求め声を上げる労働者(布施恵輔*11
(内容紹介)
1)「ロシアのウクライナ侵攻」に対する労組(日本だけでなく世界含む)のロシア批判運動
2)ウクライナ侵攻によって助長された物価高騰に対し政府に弱者への支援を、企業に賃上げを求める労組運動
が紹介されていますが、小生の無能のため詳細な紹介は省略します。

参考

欧州労組「命守れ」運動/物価は高騰 生活水準下落「もうたくさん」/賃上げ・貧困一掃迫る2022.8.11
 インフレ率が10%近くに達している英国では、労組や、貧困層に食料支援を行う各地のフードバンクなどの市民団体、労働党の左派議員らが9日、共闘組織「もうたくさんだ」を結成しました。
 富裕層への課税を財源とし、▽物価上昇に見合う賃上げ▽エネルギー価格の引き下げ▽食料貧困の一掃▽すべての人に良質な住宅を提供―を要求しています。
 ポルトガルでは、ポルトガル労働総同盟(CGTP)が8日、購買力の低下や労働・生活環境の悪化に歯止めをかける「緊急対策」を政府に求める声明を発表しました。


◆座談会「『子どもたちにもう一人保育士を』:保育所の現場が求める制度改善」(実方伸子*12、田境敦*13、薄美穂子*14
(内容紹介)
 主として「保育基準の改定」「保育士の待遇改善」が主張されていますが詳しい説明は小生の無能のため省略します。
参考
主張/コロナ禍の保育/基準引き上げへ踏み出す時だ2020.8.7
保育士配置基準上げて/宮本徹氏 公定価格抜本引き上げを2022.5.11
なんだっけ/保育士の配置基準って?2022.7.11
子どもに予算 保育士もっと/全国集会 配置基準改善迫る/東京で800人2022.11.4


◆2022年中間選挙アメリカの行方(本田浩邦*15
(内容省略)
 米国中間選挙では
1)下院では共和党が勝利し、民主党が改選前の「議席過半数」を失ったものの、共和党民主党議席差は1桁台に留まり、当初予測の大勝(2桁台の議席差)ではなかった
2)上院では僅差ながら、民主党共和党に勝利した
3)この結果、「下院で共和党過半数」なので、政権運営は容易ではないものの、「上院では民主党過半数」のため、バイデン*16政権がレイムダック化することは何とか回避できた。危惧されたウクライナ問題での「米国の支援大幅縮小」の可能性はまずなくなった
4)これは共和党の「LGBTや黒人への差別」「移民反対」「中絶反対」が「LGBT、黒人票」「移民が多いヒスパニック層」「中絶の権利に敏感な女性票」を民主党に向かわせたと評価できる(日本では自民党もこうした点では酷いのですが、米国と違い選挙に影響がないらしい点はげんなりします)。
 また「トランプ派による上院襲撃の正当化」「公文書の不正持ち出し疑惑」などトランプの謀略体質、不祥事が「今もトランプを礼賛する共和党」への反発となって民主党へ票が行ったとも思われる(この点、「モリカケ桜」の安倍を長期政権にした日本人とは大きく違っており実に恥ずかしい)。今後、共和党内におけるトランプの権威失墜の可能性がある。トランプは2024年大統領選出馬を表明したが実現できるかどうかに疑問符がついた。
 また最近の世論調査では「米国の若者に社民主義的な傾向が増えてる」事が認められる。若者の多くは民主党に投票したと考えられる(これについては例えば4年前の古い記事ですが社会主義やマルクス(エンゲルス)などが世界的に復権しているようだし、極右への反発も生じている(しかし日本は?) - ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)、2年前の古い記事ですがサンダースと民主社会主義を支持する米若者世代 その背景とは? | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)参照。2020年大統領選でのサンダースブームに象徴される米国若年層での社民主義支持傾向は今も変わらないようです。過大評価は禁物ですが日本の若者との違いにはげんなりします)。
 共和党トランプ大統領時代に「右翼支持層(トランプ派)」に迎合することで国民政党と言うよりも「右派が多い白人中年男性を主たる支持層とする極右政党化」してしまった(「極右化」という点は安倍復権以降の自民に似ているかもしれない)
 その結果、今回、「物価高騰」と言うハンデを抱えながらもバイデン民主党が健闘したのであり、共和党は「脱トランプ(単にトランプを排除するのではなくトランプ的な極右路線の廃棄)」をしなければ、「共和党の低迷」は今後も避けられないのではないか。
【追記】
 kojitakenはkojitakenの日記において「泉立民への新自由主義へのすり寄り」を批判していますが、この点、本田論文も「米国民主党クリントン*17時代)の新自由主義へのすり寄り」という興味深い指摘(クリントン時代の民主党批判)をしていますので紹介しておきます。
 民主党は大統領選挙(レーガン*18、ブッシュ親*19)で「1981~1993年」と「3期12年(レーガン2期、ブッシュ親1期)」にわたり、共和党に政権を奪われます。
 この苦い経験からクリントンが導き出したのは本田論文に寄れば「レーガンやブッシュ親のように右(新自由主義)にシフトする」という「今の泉執行部」のような路線でした。その結果が本田氏の認識では「新自由主義に批判的な民主党支持層の離反(例:ラルフ・ネーダーへの投票)」による「2000年大統領選挙でのゴア*20の敗北、ブッシュ子*21の勝利」であり、この反省から、民主党オバマ政権時代以降「オバマケア」など「新自由主義からの脱却(リベラルへの回帰)」を始めます。その成果が今回の「中間選挙の善戦」だったわけです。
 一方の共和党は「2008年大統領選でのペイリン副大統領候補(当時、アラスカ州知事、いわゆる茶会系)擁立」以降、「リベラル回帰」に努力した民主党とは逆に「極右路線」を強めていきます。
 2008年大統領選時点で「バイデン不正選挙論(トランプ)」のような「オバマイスラム教徒説」などの「デマ」「陰謀論」は共和党支持者によって流布されていました(例えばバラク・オバマの宗教陰謀論 - Wikipedia参照)。
 トランプ(2016年大統領選で勝利)が極右路線をエスカレートさせたことは事実ですが、「遅くとも2008年」時点で(つまりトランプ登場以前から)、共和党における極右の影響力は無視できない物になっていたことに注意が必要です。
 その意味で「共和党の現状」については「茶会系のペイリンを副大統領候補にして党内の極右勢力を助長したマケイン」の責任は重大と言うべきでしょう(2008年当時からその点でマケインは批判されていますし、ジョン・マケイン - Wikipediaによればマケインも大統領選挙後、ペイリン擁立について後悔の弁を述べてるようですが)。


◆女性の自己決定権を奪うな:全米を揺るがした中絶禁止法反対の大波(薄井雅子*22
(内容紹介)
 薄井論文も、本多論文と同様に「中絶問題」が民主党の上院勝利をもたらしたと評価していますが、それを一層深く説明しています。詳しい説明は小生の無能のため省略します。

*1:立教大学名誉教授。著書『現代企業と経営分析』(1994年、大月書店)など

*2:日本共産党国際委員会副責任者(常任幹部会委員兼務)。著書『NATOはどこへゆくか』(2000年、新日本新書)、『戦争と領土拡大:ウクライナと国際秩序の行方』(2022年、新日本出版社

*3:有料記事で読めませんがどう見てもこの記事自体は大東亜戦争美化のアホ記事でしょう。

*4:著書『再生可能エネルギー「先進国」インド』(2010年、日報出版

*5:とはいえ印中国境紛争時も出席してるわけですから「中国の脅威」は言い訳にならないでしょう。

*6:著書『新興大国インドの行動原理:独自リアリズム外交のゆくえ』(2020年、慶應義塾大学出版会)

*7:タリバンへの軍事支援をしてきた」とされるパキスタンはともかく、中国はタリバンと別に関係は深くないと俺は思っています。勿論中国が、「アフガンへの中国企業の経済進出」「パキスタンとの友好関係」を配慮してか、タリバンに寛大なことは事実ですが。

*8:その可能性はほぼないですが。

*9:順天堂大学講師

*10:勿論団塊ジュニアの俺は知っています。

*11:全労連事務局次長(国際局長兼務)

*12:全国保育団体連絡会副会長

*13:愛知保育団体連絡協議会事務局長

*14:全国福祉保育労働組合保育種別協議会事務局長

*15:獨協大学教授。著書『アメリカの資本蓄積と社会保障』(2016年、日本評論社)、『長期停滞の資本主義』(2019年、大月書店)

*16:オバマ政権副大統領などを経て大統領

*17:アーカンソー州知事を経て大統領

*18:カリフォルニア州知事を経て大統領

*19:CIA長官、レーガン政権副大統領などを経て大統領

*20:クリントン政権副大統領

*21:テキサス州知事を経て大統領

*22:著書『戦争熱症候群:傷つくアメリカ社会』(2008年、新日本出版社