今日の中国ニュース(2019年11月10日分)

福島香織のツイート

福島香織
 いまから昭和12年学会に行ってくる。
 江崎道朗*1先生がトーマス・ビッソンがソ連軍情報部の工作員になる前に、中国共産党秘密党員として、盧溝橋事件や米国内の反日援支運動に関わっているという話。中国共産党の対米世論工作を研究せずに昭和12年史は解明できない、という話

 福島も本気ではなくウヨ業界に媚びてるだけでしょうが、呆れて二の句が継げませんね。トーマス・ビッソンなる人間について小生は知りません。
 ウィキペディア「トーマス・アーサー・ビッソン」によれば

・1900年生まれ~1979年死去。
・1929年外交政策協会(EPA)の極東研究員。
・1937年、雑誌『アメラジア』の創刊に参加。1941年まで『アメラジア』の編集委員兼執筆者を務めた。
・1943年から1945年まで太平洋問題調査会(IPR)に研究員として籍を置き、IPRの機関誌『パシフィック・アフェアーズ』の副編集長も務めた。
・1945年10月から1947年4月までGHQ民政局のメンバーとして財閥解体などの改革に従事し、『ビッソン日本占領回想記』(邦訳、1983年、三省堂)、『敗戦と民主化GHQ経済分析官の見た日本』(邦訳、2005年、慶應義塾大学出版会)などの著書がある

そうですが。
 おそらくソ連工作員云々、中国共産党秘密党員云々は「張作霖暗殺・コミンテルン陰謀論」などのようなデマでしょうが、「デマだと言えるだけの知識が小生にはない(そもそもビッソンについて知らない)」。
 しかし、それでもこの福島ツイートがおかしいことは分かります。まず第一に盧溝橋事件(昭和12年)は「中国国民党軍と日本軍の武力衝突」であり、中国共産党は何一つ関係ありません。福島や江崎は「盧溝橋事件・中国共産党陰謀論」と言う与太を飛ばす気なのか?(おそらくそうなのでしょう)
 第二に「米国内の反日援支運動」とやらを「米国に働きかけた中国側の主力」はもちろん「当時の正統政府・蒋介石政権」です。当たり前でしょう。その意味では「米国の対日世論」に大きく影響したのは「中国共産党の対米世論工作」などではなく「中国国民党の対米世論工作」です。


地下鉄駅や商業施設破壊 香港各地で衝突、多数拘束 - 産経ニュース

 抗議活動が続く香港の九竜地区や新界地区で10日、一部デモ隊が地下鉄駅の改札口や親中派とみなす飲食店を破壊した。

 あくまでも「一部」であって「全部」ではありませんがもはや一部のデモ隊については「犯罪者集団」として刑事処罰を受けて当然の連中だと思います。
 もはや「警察も暴力を振るってる」て正当化できるレベルではないでしょう。


【産経抄】11月10日 - 産経ニュース

 社会主義の敗北と冷戦終結につながる「ベルリンの壁」崩壊から30年がたった。自由と民主主義の勝利を告げる笛はしかし、まだ鳴っていない。

 そりゃ当然でしょう。独裁は共産党一党独裁旧ソ連、東欧など)の専売特許じゃないからです。昔なら「ナチスドイツ」「ムソリーニイタリア」「朴チョンヒ韓国」「ピノチェトチリ」など、最近でも「プーチン・ロシア」「フンセン・カンボジア」「エルドアン・トルコ」「エジプト・シシ」など「共産主義でない独裁(共産主義どころか反共独裁)」はいろいろあります。
 と思ったのですが、産経の言いたいことはそういうことではなかったようです。「中国ガー」だそうです(苦笑)。


【主張】南シナ海問題 中国の「日米排除」許すな - 産経ニュース
 南シナ海の領土紛争の当事者は「中国」「台湾」「フィリピン」「ベトナム」であって日米は関係ありません。関係各国で話がつくならそれでいいわけで、「フィリピン」「ベトナム」に依頼、要請でもされたのならともかくそうでないなら、部外者の日米が勝手に口出しすべき話では全くない。
 結局、事情はともかく「フィリピンやベトナム」が産経が希望するような「反中国姿勢」ではなく、その結果「日米の政治介入を求めず、中国と個別に話を付けようとしていること」、その結果「産経が希望するような反中国的結末にならないこと」が気にくわないのでしょうが余計なお世話です。
 フィリピンやベトナムは産経の反中国にお付き合いする義務はどこにもない。


■I濱Y子ブログ『空き巣被害にあって』
 リンクを張ると発狂する御仁がI濱女史なのでリンクは張りません。興味のある方は記事タイトル名でググって下さい。

・実は7月に空き巣に入られた。
・警察の方曰く「ここらあたりは中国人やコロンビア人の窃盗グループがよく荒らすんですよ。一時パソコンばかり盗んでいくやつらがいました」と云われてはっと気づく。
 パソコンがない。
・このマック、去年買ったもので、メモリ増設していたから軽く20万は超えていて、なおかつこないだ修理したばっかりで、9月しめきりの論文のための、読書メモやpdf論文があそこにしか入っていない。パソコンは買い換えられるけどデータは取り替えがきかない。
 シリアル番号を警察の書類にかき、泥棒の指紋と区別するため私の十本の指の指紋をとられる。
・帰り際の警察の方の話では、実行犯はすぐ捕まるだろうとのこと。組織の場合、末端を捕まえても、盗品は戻って来ないと、暗にとられたものはかえってきませんよ、的なことを云われる。
 ここでみなさんに質問。
 私がパソコンを盗られたといった時、そこのあなた、やったのは某国*2のスパイだと思いませんでしたか? 正直に言いましょう。 私も一瞬そう疑いました。
 しかしすぐ、冷製パスタになって犯人像をプロファイリングした結果、日本人のドロボーだろうと結論。
・しかし、私が空き巣にあったことを知った人はみな、「某国のスパイではないか」と延髄反応した。というわけで、私に何かあると真っ先に某国が疑われることがわかった(笑)。
・それから一ヶ月半たった、9月6日、(中略)空き巣は案の定、日本人で27才、警察の見立てでは組織のバックのないフリーの空き巣だという。

 吹き出しました。スパイ云々って冗談でも笑えませんが本気なんですかねえ。
 普通に考えて「犯人が逮捕される前から」普通の人間はただの空き巣と思うでしょうよ(組織的犯行かどうかはともかく)。空き巣に入ったとき、「転売したりして金になりそうなもん」としてパソコンを泥棒したと言うことでしょう。
 それにしても警察から「パソコンが盗まれてませんか」と言われるまで盗まれたことに気づかないとは女史も浮世離れしてるというか何というか。

*1:著書『コミンテルンルーズヴェルトの時限爆弾:迫り来る反日包囲網の正体を暴く』(2012年、展転社)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』(2017年、PHP新書)、『日本は誰と戦ったのか:コミンテルンの秘密工作を追求するアメリカ』 (2017年、ワニブックスPLUS新書)、『日本占領と「敗戦革命」の危機』(2018年、PHP新書)、『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』(2019年、PHP新書)など

*2:まあ中国のことなんでしょうね。

今日の産経ニュース(2019年11月10日分)

国民玉木代表、桜を見る会追及「説明求めたい」 - 産経ニュース
野党、桜を見る会追及へ 「首相が税金で後援会招待」 - 産経ニュース
 新聞や雑誌は比較的頑張ってると思いますが、こうした安倍政権の疑惑についてろくに報じないテレビワイドショーには心底呆れます。


【新聞に喝!】国民に見放される“揚げ足取り”記事 作家、ジャーナリスト・門田隆将(1/2ページ) - 産経ニュース

 萩生田(はぎうだ)光一文部科学相の「身の丈発言」のどこが悪いのか、多くの読者は理解できないに違いない。

 萩生田当人が謝罪と「英語民間テスト実施の延期表明」に追い込まれたのに良くもこんなふざけたことが抜かせたもんです。むしろ萩生田や安倍もありがた迷惑じゃないか。


【書評】『頼山陽と戦争国家』見延典子著 - 産経ニュース
 産経には珍しく「幕末の尊皇攘夷思想家・頼山陽」が「鬼畜米英」「暴支膺懲」(つまり昭和版攘夷運動)を叫ぶ昭和日本においていかに政治利用されたかという真面目な学術書のようです。

「珍右翼が巣くう会」に突っ込む(2019年11/10分:荒木和博の巻)

16人殺害?【調査会NEWS3116】(R01.11.9): 荒木和博BLOG

 殺人犯であるとして亡命希望の2名を北朝鮮に送還した韓国政府、さすがに韓国内でも批判が高まっていますが、もはやもっともらしい嘘もつけなくなってきたということでしょう。

 「ウソ」とは断言できないですね。
 話としては
1)韓国へのある脱北者について北朝鮮が「我が国で16人もの人間を殺害した凶悪犯なので引き渡してほしい」と要請
2)「そんな凶悪犯なら引き渡さないわけに行かないな」と韓国政府(文政権)が引き渡し
3)「北朝鮮が嘘をついてないとどうして言えるのか!。北朝鮮側から充分な証拠の提示を受けたのか?」「もし仮にそうした凶悪犯だとしても、スウェーデン死刑廃止国)が日本(死刑存続国)の殺人犯引き渡し要求を『死刑の可能性がわずかでもある以上、死刑廃止国として引き渡せない』『引き渡してほしいなら死刑には絶対にしないと確約してほしい(そして確か日本が確約しなかったため、引き渡し拒否で代理処罰)』としたように『事実上の死刑廃止国』として引き渡しを拒否し代理処罰で処理すべきではなかったか?」と言う文政権への野党などの批判
(なお、韓国には死刑は刑罰として存在し、そうした判決も出ているが、死刑が執行される米国や日本などと違い1997年12月30日以降、死刑が20年以上も執行されていないため、『事実上の死刑廃止国』と見なされている)
つう流れです。
 まあ、なかなか難しい話かと思います。荒木のようなアンチ北朝鮮なら「北朝鮮の主張だから嘘に決まってる、だから引き渡さない、以上」で終わりでしょうが。
 凶悪犯かどうかはなんとも言えませんし、北朝鮮にその点「証拠の提供」や「代理処罰」を主張しても南北関係がただ悪化するだけかもしれません。
 「南北関係が悪化しても証拠の提供を求めたり、代理処罰を主張すべきか」と言うとその点は俺個人は正直「悩ましいところ」ですね。

 そのうち北朝鮮にとって気にくわない日本人や在日*1も韓国で何か言いがかりを付けられて捕まって北朝鮮に送られるというときが来るかもしれません。
 文在寅政権のやろうとしていることは日韓関係*2も日米関係*3も破壊し、最後は韓国を破壊して敗戦革命を行い北朝鮮が吸収するということなのでしょう。今回の事件でそれを実感しました。

 デマも大概にしろ、ですね。今回の文政権の引き渡しを否定的、批判的に評価する場合でもまともな人間はこんなデマを飛ばしたりはしません。
 大体「北朝鮮で犯罪を起こしてもいない」のにどうやって北朝鮮への身柄送致を正当化するのか。こんなことを抜かす荒木(明らかに北朝鮮が気にくわない人間の一人)が「そうした事態を恐れて当面、訪韓を自粛するか」といったらそんなこともないでしょう。

【参考:スウェーデン&ブラジルの引き渡し拒否】

団藤重光『死刑廃止論』批判草稿
■出典:団藤重光*4著、『死刑廃止論(第5版)』、有斐閣、1997年
 要するにスウェーデンが、今回、犯人の引渡し拒否の姿勢を示していることは、日本が死刑廃止国になっていないで、文化的・社会的にまだヨーロッパ諸国の仲間入りをしていないことが、こういうところにも表れた問題だと見なければなりません。
(中略)
 裏を返せば、日本が文化国の仲間入りがまだできないということにもなって来る。まことに恥ずかしいことです。憲法前文にあるような「国際社会において、名誉ある地位を占める」というには、ほど遠いことになるのではないかという感じを、ここでも持たざるを得ないのであります。(pp.70-71)
(注.日本で殺人を犯し、国外へ逃亡したと見られるイラン人が、古くからの死刑廃止国であるスウェーデンで身柄を拘束された。ところが日本の捜査当局が身柄の引渡しを求めたところ、スウェーデン当局は「死刑制度のある国には、本人を死刑にしないという保証がないかぎり、引渡しはできない」といって交渉が難航した)

 小生は団藤氏の意見「死刑廃止論」に同感ですが、氏の意見を紹介したこのブログ主は「引き渡さないスウェーデンが間違ってる!」「欧米の死刑廃止論が先進的で日本の死刑存続論が後進的というのは、誤った欧米崇拝、植民地主義だ!」「日本には日本の文化と伝統がある!」とする死刑愛好家であり、団藤氏には否定的です。そこで「賛同できない彼の意見」については紹介を省略します。興味がある方はリンク先をご覧下さい。

「拷問の恐れ」中国に引き渡し拒否 スウェーデン最高裁:朝日新聞デジタル
・巨額の横領の容疑で国際指名手配されていた中国人の男について、スウェーデン最高裁は犯罪容疑を認めた上で、「拷問の恐れがある」などとして中国政府が求める引き渡しを認めない決定を出した。中国側は反発しており、両国間の外交問題になりそうだ。
・男は国有企業の河南省での幹部だった喬建軍容疑者。1億スウェーデンクローナ(約11億円)相当の横領が絡む事件をめぐって中国政府の要請を受けたスウェーデンの警察が2018年6月に逮捕していた。
 決定では、犯罪があったと認める相当の理由があるとした。ただ、喬容疑者は政治活動に携わっていたと主張しており、中国に移送されれば、政治的な理由で訴追を受け、死刑判決を受けたり拷問を受けたりするなど、欧州人権条約に違反する扱いを受ける可能性があると指摘。身柄引き渡しは認めないと結論づけた。
 一方、中国外務省の耿爽副報道局長は9日の会見で「中国は人権保護を重視しており、容疑者の正当な権利を保障している」と反論。欧州、アジア、アフリカなどから260人以上引き渡しを受けているといい、「中国の司法制度に対する国際社会の信頼は十分に証明されている」とした。

 まあ日本のケースとは性格が違いますが「スウェーデンの引き渡し拒否」の最近の事例です。こうした決定が正しいかどうかはよく分かりませんので特にコメントはしません。

「逃げるが勝ち」は絶対に許さないジャーナリスト魂 『騙されてたまるか』 WEDGE Infinity(ウェッジ)
 まず第1章から鮮烈な印象を読者に与える。日本で凶悪事件や重大事故を起こした末に、母国ブラジルに逃亡した犯罪者を「地球の裏側」まで追いかけて取材をかける場面は圧巻だ。いずれも静岡県内で死亡ひき逃げ、殺人などの事件・事故を起こした日系ブラジル人が、日本での訴追を逃れ母国に逃げ帰ったケースだ。
 日本とブラジルの間に犯罪人引き渡し条約はない。容疑者がわかっているのに、日本の当局は手も足も出せない。このもどかしさと「逃げるが勝ち」は絶対に許さないというジャーナリスト魂が著者を突き動かし、取材へと向かわせる。居場所を突き止め、直接面会し、犯人に面と向かって犯罪事実を突きつけ、警察への出頭を促す。そしてその模様をあますところなくテレビカメラで記録する。経験を積んだジャーナリストでもなかなかできることではない。身の危険があるし、凶悪犯と向き合う恐怖もある。それを克服して立ち向かう。取材の結果は、日本とブラジルの二か国で番組として放送され、その後「代理処罰」という形でブラジルに逃げた容疑者は母国の検察当局に訴追され、有罪となった。
 このほか著者は、桶川ストーカー殺人事件*5足利事件*6など、取材で感じた矛盾や疑問点を放置せず、独自に調査を重ね、警察の怠慢や冤罪事件の全体像へと迫ってゆく。

「現場の声を大切に」第95代警視総監に就任 三浦正充(みうら・まさみつ)さん(58) - 産経ニュース
 警察庁国際捜査管理官だった平成18年ごろ、日系ブラジル人の犯罪が相次いだ。(ボーガス注:犯罪人引き渡し条約がないために)日本で犯罪をしてもブラジルに戻られて捜査の手が及ばない「逃げ得」の状況が社会問題化。ブラジル当局と粘り強く交渉し、1年近くかけて同国内で容疑者の刑事責任を追及する代理処罰にこぎ着けた。「誠実な三浦さんだからこそできた」と当時を知る幹部は語る。

長野の強殺で控訴棄却、ブラジルで代理処罰 - 産経ニュース
 長野県松本市で2003年に貸金業の男性が殺害され現金が奪われた事件の控訴審で、ブラジル・サンパウロの裁判所は15日、ブラジルで強盗殺人罪に問われ、1審で禁錮30年の判決を受けたジュリアノエンリケ・ソノダ被告(38)の控訴を棄却した。
 ソノダ被告は事件後、ブラジルに逃亡。日本政府の代理処罰(国外犯処罰規定による訴追)要請を受け、ブラジルで起訴された。

日系ブラジル人2人逮捕 名古屋の経営者殺害事件 - 産経ニュース
 2001年9月に名古屋市中区で風俗店経営稲垣春美さん=当時(54)=が殺害され、金品が奪われた事件で、ブラジル連邦警察は3日までに、日系ブラジル人の男2人をサンパウロ州で逮捕した。同州検察当局が明らかにした。
 2人は、マルセロ・ヨコヤマ容疑者とアレシャンドレミウラ容疑者。ブラジルで代理処罰(国外犯処罰規定による訴追)の裁判が行われる見通し。

ブラジル人母子3人殺害、帰国の容疑者を書類送検 静岡 - 産経ニュース
 静岡県焼津市で平成18年にブラジル人母子3人が殺害された事件で、県警焼津署捜査本部は6日、殺人の疑いで、母親と交際していたブラジル人、ネベス・エジルソン・ドニゼッチ容疑者(56)を静岡地検書類送検し、捜査を終結した。
 送検容疑は同年12月18日ごろ、当時住んでいた同市東小川の自宅居室内で、交際していたミサキ・ソニア・アパレシダ・フェレイラ・サンパイオさん=当時(41)=の長男、ヒロアキさん=当時(15)=を殺害。同日ごろ、ミサキさん方の居室で、ミサキさんとヒロユキさん=当時(10)=を殺害した。県警によると、殺害方法はいずれもロープで首を絞めたことによる絞殺。
県警によると、同容疑者は犯行翌日に帰国。日本とブラジルは犯罪人引渡条約を結んでいないため、日本政府は代理処罰(国外犯処罰規定による訴追)を要請した。同容疑者はブラジルで起訴され、昨年4月16日の控訴審において禁錮54年9月の判決が言い渡され、刑が確定している。
 捜査本部は「ブラジル当局の真摯(しんし)な対応に感謝したい」とのコメントを出した。

 ブラジル人母子3人殺害、帰国の容疑者を書類送検 静岡 - 産経ニュースの事件が起きた静岡県焼津市もそうですが、最近ではブラジル人の出稼ぎが静岡県浜松市群馬県太田市大泉町などで増えていますね。
 これについては「代理処罰ではなく、引渡条約締結による引き渡しを求めては?」と言う声があります(たとえばブラジルとの犯罪人引渡し条約に関する請願:請願の要旨:参議院参照)。
 ただしブラジルは死刑廃止国(だからこの事件でも複数殺人なのに死刑判決ではない)なので「引渡条約を結んでも、死刑が法定刑にある犯罪(典型的には殺人)については、死刑廃止スウェーデンと同じ事態(引き渡し拒否)がほぼ確実に生じる」といわれています。つまりこの焼津の事件(3人殺害)や長野や名古屋の事件(強盗殺人)のような「日本では死刑判決の可能性が濃厚な事件」では条約を仮に結ぼうがどっちみち日本には引き渡されなかった、代理処罰になったと言うことですね。
 しかしこの種の引き渡しを求める人の最大の関心事は「殺人のような死刑が法定刑にある犯罪者の引き渡し」でしょうから「ブラジルやスウェーデンと締結しますが、死刑対象犯罪は対象外です。死刑対象犯罪は代理処罰です(全ての犯罪者を引き渡してもらうには日本が死刑を廃止する必要があります)」では「そんなん無意味ヤン!(号泣)」でしょうね。
 でこういう場合に「この機会に死刑をなくそう」ではなく
1)「スウェーデンやブラジルはふざけてる、日本を馬鹿にしている」「そもそもなぜスウェーデンやブラジルは死刑を廃止したのか!。廃止すること自体がおかしい!」になる
2)あるいはもう少しまともだと「犯罪容疑者引き渡しのために死刑を廃止するくらいなら代理処罰の方がまし」が「日本人大多数」なんでしょうかねえ。
 まあ、こういう場合は「ブラジルで代理処罰してもらう」しかないんじゃないか(スウェーデンの例の件も結局、日本への引き渡しではなく、代理処罰だったと思います)。小生のような死刑廃止派にとっては残念なことですが、「死刑存続派が多い日本」において「遠い将来はともかく」当面は死刑廃止の見込みはないですからね。

【西成准看護師事件】日中犯罪人引き渡し条約交渉停滞5年 事件捜査の「高い壁」(2/2ページ) - 産経WEST
・国外に逃亡した容疑者の引き渡しに関する国際条約締結の日中間交渉が5年以上停滞している。もともと日本は諸外国と比べて条約の締結数が極端に少ないが、政治的に日中関係が悪化していることも影響し、議論は進展していない。最近では、大阪市西成区の女性准看護師死体遺棄事件で、事情を知るとされる女(30)が中国当局に身柄を拘束されて27日で丸1年となるが、日本への引き渡しは実現していない。
・日中の刑事司法制度に詳しい一橋大の王雲海*7教授(比較刑事法)によると、交渉は日本側のニーズだけでなく、中国側も経済成長に伴って国外逃亡する汚職犯が多発した事情があり、約20年前から調整が続けられたものだったという。
 交渉が停滞する理由を、法務省は「相手国のことだから分からない」とするが、王教授はその背景に「政治的な日中関係の悪化がある」と指摘した上で、「ほかにも、汚職犯の引き渡しを重視する中国に対し、政治問題化するのを日本が嫌がり、中国が不満を抱いているようだ」とみている。
・日本が引き渡し条約を締結しているのは米韓2カ国のみ。専門家らによると、米英両国が約110カ国で、欧州各国も数十カ国程度。アジアでも中国や韓国が約30カ国で、日本の少なさが目立つ。
 近畿大の辻本典央*8教授(刑事訴訟法)は「もともと日本は島国で入国管理態勢が整っており、海外の犯罪者が逃亡してくる事例が少なかった」と解説する。だが最大のネックは「欧州を中心に、死刑制度の残る日本への容疑者の移送に根強い抵抗感がある」として、「死刑の対象となりうる容疑者は引き渡し対象から外す特例を設けるなど、日本側も条約締結へ向けた努力が必要」と提言する。

 太字強調は小生がしました。なるほどねえ、そうだろうねえ、ですね。しかし「死刑を廃止しよう」と言う話には日本ではならないわけです。
 なお、この2015年産経記事の時点では日本に引き渡されてなかった*9日系ブラジル人女性」ですが

【西成准看護師事件】中国最高裁が日系ブラジル人の女の身柄引き渡し認める判断…准看護師遺棄で(1/2ページ) - 産経WEST
 大阪市西成区准看護師、岡田里香さん=当時(29)=が2014年、東京都内のトランクルームで遺体で見つかった事件で、中国の最高人民法院最高裁)は20日、中国で拘束されている元同級生の日系ブラジル人の女(31)の日本への引き渡しを認めた。

【取材の現場から】西成准看護師殺害事件 日中の壁、身柄移送に2年8カ月(1/2ページ) - 産経WEST
・1月25日夕、関西国際空港に、日系ブラジル人のオーイシ・ケティ・ユリ被告(33)=強盗殺人罪などで起訴=が、身柄を拘束されていた中国・上海から移送された。事件発生から約3年が経過していた。
・捜査の手を阻んだのが国境の壁だった。オーイシ被告は上海の日本総領事館に出頭し、中国の公安当局に身柄を拘束されていた。日中間には犯罪人引き渡し条約がないため、府警は外交ルートを通じて引き渡しを求めた。
・身柄が移されるかどうかは、相手次第。「もうすぐらしい」との情報が何度も出ては消えた。日中間で外交問題が再燃する度に、捜査関係者は「これでまた先延ばしになるのでは」とため息をついた。28年5月に中国の最高人民法院最高裁)が引き渡しを認める決定を出したが、引き渡し当日まで捜査員の間で、疑心暗鬼は消えなかった。
・逮捕後、オーイシ被告は取り調べで「身分と金を奪うために何回もナイフで刺した」と打ち明けた。「中国の大学で広告の勉強をしたい」と考えたが、不法残留の状態だったため出国できなかった。他人になりすまして旅券を取得するため、「旅券を持っておらず、1人暮らしで襲いやすい」という岡田さんを標的に選んだのだった。
・オーイシ被告は取り調べで「申し訳ないことをした」と涙を流したという。

【西成准看護師殺害】中国で拘束の女が関空到着 大阪府警、詐欺容疑で逮捕(1/2ページ) - 産経WEST
 大阪市西成区准看護師、岡田里香さん=当時(29)=の遺体が平成26年に東京都内のトランクルームで見つかった事件で、中国で身柄を拘束され、大阪府警が強盗殺人や詐欺容疑などで逮捕状を取っていた日系ブラジル人、オーイシ・ケティ・ユリ容疑者(32)=通称・大石ゆり=の身柄が25日午後、中国・上海で日本側に引き渡された。

「多重人格」被告の責任能力認める 西成准看護師殺害で無期判決(1/2ページ) - 産経ニュース
・平成26年に大阪市西成区准看護師、岡田里香さん=当時(29)=を殺害して現金などを奪ったとして、強盗殺人罪などに問われた元同級生で日系ブラジル人、オーイシ・ケティ・ユリ被告(34)の裁判員裁判の判決公判が14日、大阪地裁で開かれた。上岡哲生裁判長は「完全責任能力が認められる。他人に成り代わるという身勝手な考えで犯行に及んだ」として、求刑通り無期懲役を言い渡した。
・争点だった刑事責任能力の程度を検討。ナイフを事前に準備したり、殺害後に現場の血痕を拭き取ったりしていたことを挙げ、「発覚を防ぐための行動を取っていた」と指摘。「善悪の判断能力や行動の制御能力が著しく低下していなかったことは明らか」として、事件当時の完全責任能力が認められるとした。
・弁護側は、多重人格が現れる「解離性同一性障害」の影響により別の人格に支配され、行動を制御できない心神耗弱状態だったと主張していたが、上岡裁判長は「別人格が主体だったとしても行動の制御ができており、犯行は被告の責任」と退けた。

「心神耗弱の状態」弁護側が改めて主張 西成の准看護師強殺、控訴審初公判 - 毎日新聞
大阪市西成区で2014年に准看護師の女性を殺害して現金などを奪ったとして、強盗殺人などの罪に問われ、1審で無期懲役の判決を受けた日系ブラジル人、オーイシ・ケティ・ユリ被告(35)の控訴審初公判が2日、大阪高裁(三浦透裁判長)で開かれた。弁護側は、被告が心神耗弱の状態だったと改めて主張

ということで現在は日本に引き渡され一審で無期懲役の有罪判決が下っています(ただし弁護側が控訴)。
 なお、これは個別の引き渡しであって、今も日中間で犯罪者・犯罪容疑者の引き渡し条約は締結されてないようです。

*1:具体的には産経新聞などウヨメディアを舞台に北朝鮮や韓国に「ないこと(慰安婦は公娼だ、文政権は北朝鮮シンパだ、特定失踪者は北朝鮮拉致だ、など)」を悪口してる輩でしょう。そういう「在日」も確かいますが一寸今すぐには名前が出てきません

*2:日韓関係を破壊してるのはむしろ「ホワイト国除外」などを行う安倍の方ですが。

*3:米韓関係ならともかく日米関係を文政権がどうやって破壊するのか。荒木の誤記なのか?。誤記でないとしたらどういう「日米関係破壊」を想定しているのか?

*4:1913~2012年。東大名誉教授(刑法、刑事訴訟法)。最高裁判事(1974~1983年)、宮内庁参与(1989~2000年)など歴任。

*5:これについては清水潔『桶川ストーカー殺人事件:遺言』(2004年、新潮文庫)参照

*6:これについては清水潔『殺人犯はそこにいる:隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』(2016年、新潮文庫)参照

*7:著書『賄賂の刑事規制:中国、米国、日本の比較研究』(1998年、日本評論社)、『「刑務作業」の比較研究(中国、米国、日本)』(2001年、信山社出版)、『死刑の比較研究:中国、米国、日本』(2005年、成文堂)、『「権力社会」中国と「文化社会」日本』(2006年、集英社新書)、『日本の刑罰は重いか軽いか』(2008年、集英社新書)、『賄賂はなぜ中国で死罪なのか』(2013年、国際書院)、『対論! 日本と中国の領土問題』(共著、2013年、集英社新書)など。

*8:著書『刑事手続における審判対象』(2015年、成文堂)、『刑事弁護の理論』(2017年、成文堂)

*9:中国は死刑存続国なので死刑廃止スウェーデンの場合とは話が違いますが

高世仁に突っ込む(2019年11月10日分)

命はそこにあるだけで意味がある - 高世仁の「諸悪莫作」日記

 藤井理恵さん*1淀川キリスト教病院チャプレン)は、病院付きの牧師チャプレン(chaplain:教会・寺院に属さずに施設や組織で働く聖職者)を26年つとめてきた。藤井さんが亡くなっていく人々との関わりのなかで何を感じ、考えてきたのかが「それぞれの最終楽章」という朝日新聞の企画で連載されていた。以下に紹介するのはその最終回「命はそこにあるだけで意味がある」。
 宇宙とか大自然とか「人間を超えた何か」といった絶対的存在との関係の中で命や人生を眺めると、見方が全く変わってくると思います。牧師である私にとって、それは神様です。
 命を与えた存在が「この時代に、この家族のもとでこうした状態で生きるように」と、この世にあなたを置いて下さった。そう受けとめれば、この世に置かれたこと、「生きてここにあること」自体に意味があると気づかされます。「自分の人生に意味がない」などと自己否定しても、あなたの存在は絶対的に肯定されているのです。

 前も何度も似たようなことを書いていますが、小生は「神などいない」と思っていますし、そういう意味で「生きることそれ自体に価値などない」と思っています。
 じゃあ「生きること自体に価値などない」と思う小生は「自殺を奨励するのか」。そういう話ではないですね。
 生きることに「俺の生きがいは仕事だ」などのように価値を見いだすのは「私やあなた」といった「生きている当事者だ(神とか他の物ではない)」ということです。
 生きている当事者が「自分の生き様に価値を見いだすこと」によって生きることに価値が生じる。生きるとはそういうことであり「神」などいう「いるかいないか分からない物(たぶんいないもの)」を持ち出しても全く無意味だと俺は思っています。神なんぞ持ち出すくらいなら、「患者が私を頼るから(医師の場合)」「子どもが私を頼るから(子どもを抱えた親の場合)」といった「実在する物が私を評価してくれるから」のほうがまだマシでしょう。
 じゃあ、仮に「あなたは生きる価値、生きがいは自分で見つけるものだというが私には見つからない。どうしたらいいのか。自殺した方がいいのか」と言われたらどうするのか。まあ、小生なら「探し方が悪いんじゃないか?」「死ぬことなんかいつでも出来るのだから周囲の力も借りて探したら?」「あなたが楽しいことは何なのか、まず考えてみたら?」「生きがいがないなんて思ってるのは今、つらいこと(失業、失恋など挫折)があるからじゃないか、そのつらいことを周囲の力も借りて解決しては?」などですね。
 大体そういう「生きがいがない」と嘆く人間に向かって「生きていること自体に価値がある」なんていっても全然心に響かないでしょうね。少なくとも俺なら心に響きませんね。
 そういう意味ではまあ、ベタな落ちで恐縮ですが、メーテルリンクの「青い鳥*2」の落ちが「人生の真実だろう」と思います。結局、「幸せの青い鳥」は自分で探さないといけない。他人は探してくれない(まあ「探すことを手伝ってくれ」と頼んでも最終責任は自分です)。そしてもしかしたらその「青い鳥」は気づかないだけで「自分の身近なところにある」のかもしれない。

 障害を持って生まれた、病気になった。それで他の人が出来ることが出来ない、出来なくなった。だから劣った、かわいそうな存在だという人がいます。確かに生きてゆくのはつらいことが多く、治療の苦しみや痛みを負うのは、かわいそうと言えるかもしれません。でも決して「かわいそうな存在」ではありません。

 いやいや率直に言って「かわいそうな存在」でしょう。ならば藤井さんは「障害者に生まれてきても良かった」のか。そんなことはないでしょう。障害者差別と言われようとも小生は「健常者に生まれてきて良かった」「障害者でなくて良かった」と思います。
 とはいえ障害者が「障害なんかほしくなかった」と思ったところで現在の医学ではどうにもならないわけです。障害を抱えて生まれてきたらそういう体で生きるしかない。その上で「どう障害者が幸せに生きていくか」「周囲がどう障害者を支援していくか」と言う話であって「障害のために、生活に支障があるかわいそうな肉体である」と言う事実を否定するのははっきりいって偽善だと思います。
 ただ「かわいそうな体である」ということは当たり前ながら
1)かわいそうな存在だからどんなわがままも許されるということでもなければ
2)かわいそうな存在だから周囲が全て方針を決めるべきだということでもない
わけです。そこは勘違いしてはいけない。「甘やかし」やそれとは逆の「過剰な干渉(自主性の否定)」は論外だと言うことです。

 年を取ると聞こえなくなった、歩けなくなったと不満が出ます。それをマイナスと捉えるのは人の価値観です。

 おいおいですね。価値観ではなくて明らかにマイナスですよね。ただしそのマイナスを「補聴器」「車椅子」などでカバーできればともかく、カバーできないなら「受け入れるしかない」わけです。
 これは何だってそうです。「ガンで死ぬ」のだって誰も受け入れたくはない。しかし「逃れられない死」なら受け入れるしかないわけです。
 受け入れるしかないから「受け入れた」上で「どう幸せに生きていくか」と言う話であって、「病気が治療できる」など「受け入れなくて済む話」であるなら受け入れる必要はどこにもありません。高世といい藤井氏といい、藤井氏のアホ話を掲載した朝日新聞といい「バカか?」というのが俺の感想ですね。何度も言いますが「受け入れざるを得ないもの(例:横田めぐみ氏は死亡の可能性が高い)」はつらくても「受け入れるしかない」、そういう話でしかありません。「酒や薬物などに逃げた」り「俺が死ぬはずなんかない、誤診に違いない、などと強弁した」りしたところで「事態は変わらない」と言う意味では受け入れざるを得ない。

 「どうすれば自分の死を受けいれることができますか」とよく尋ねられます。死の受容は、人生が「与えられたものである」と了解していくときに可能になっていくのでしょう。与えられた命をもって生まれて、生きて、死んでゆく。そのプロセスの中で死を終点と捉えれば、「自分が無くなってしまう」となりますが、帰るのであれば、その先も続きます。私はそう信じ、ここに希望を見いだしています。

 死ははっきりいって「終点」だと思います。生まれ変わりなどないでしょうからね。死んだ時点で「自分という存在」は消えてなくなります。
 それでも「受け入れざるを得ないもの」はつらくても「受け入れるしかない」。その場合の受け入れ方は「私が死んでも、私が生前やった業績(学問、芸術など)は将来も残る。だから私の人生は無駄じゃなかった」「死ぬことは怖いけど残りの人生、できる限り楽しく生きていこう。今までやらなかったことに死ぬまでに是非挑戦しよう」などいろいろあるでしょう。正直、これも「人それぞれ」だと思います。
 誰にでも通用する「死の受け入れ方」なんかあるとは俺は思いません。というか「無理して死を受け入れる必要もない」のではないか。
 まあ「他人を道連れに自殺」とかあまりにも非常識で迷惑なことをされると困りますが、人間なんだから「死を受け入れられずに泣き叫ぼうと酒に溺れようともいいじゃないか」つう気が俺にはあります。
 無理して「死を受け入れよう」としなくてもいい、そんなことより死の恐怖から泣き叫んだり、酒に溺れたりして苦しむ人間をどう周囲(家族や医師など)が支えていくかだと思いますね(精神的に大変なことですが)。支えられることによって冷静さを取り戻し、「死を受け入れること」が次第に出来るという面も大きいのではないか。
 藤井氏のようなとんちんかんな「病院付きの牧師チャプレン」は、俺が患者なら「お前みたいなアホの世迷い言なんかいらんわ!」ですね。まあ、こういうと藤井氏は多分憤激するのでしょうが、それが正直な俺の感想です。


社会の分断進む香港2―ついにデモ現場で死亡事故が - 高世仁の「諸悪莫作」日記
 高世仁に突っ込む(2019年11月8日分) - bogus-simotukareのブログで取り上げた社会の分断進む香港 - 高世仁の「諸悪莫作」日記の続きです。

・湾仔(ワンチャイ)の中国国営新華社通信香港支社のビルが若者らに襲われ、入り口のガラスが破壊され放火されたことだった。これは中国当局を相当刺激しただろう。
・6日には親中派の区議会議員候補者(何君尭、ホウ・クワンユウ議員57歳)が刃物を持った男に刺され、負傷した。

 そういう暴力行為は絶対に不可だと思いますね。なお「最初から殺す気はなかった(怪我させることや恐怖感を与えることが目的)」のか、「幸いにも周囲が阻止した」のかはともかく「原敬*3首相や浅沼稲次郎社会党委員長の刺殺」のような最悪の事態はなかったようです。

・いつか死者が出るのではと心配していたが、ついに一人の学生が亡くなった。私が香港滞在中にあった抗議活動での事故によるものだという。
 香港科技大学の周梓楽さん(22)は11月4日未明、デモ隊と警察が衝突する現場近くで、駐車場の3階から2階部分へ転落した。頭を強く打って病院に運ばれたが、8日朝に死亡したという。
 すでに8日から周さんが警察に殺されたとして抗議が始まっているが、まだ事実関係がはっきりせず、警官隊の規制が原因だとは決めつけられない。

 高世の文は完全に矛盾していますね。
 「まだ事実関係がはっきりせず」というのなら彼の転落死について目撃者はいないのでしょう。この時点で「近くでデモ隊と警察の衝突があったから」といって「彼の転落死は警察のデモ隊攻撃と関係がある」と決めつけるのは不適切というもんでしょう。
 例えば、いわゆる国鉄三大怪事件(下村、松川、三鷹事件)を「日本政府やGHQの公安部門の犯行(共産党潰しが目的*4)」と断定的に決めつけるようなもんです(下村国鉄総裁変死事件に至っては自殺説も有力)。

 まずは真相究明を優先し、冷静にと呼びかける現地英字紙を支持したい。
 《先鋭化する事態に、地元英字紙「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」は社説を発表。香港を「深刻な2極化が進んでいる」とした上で、「周さんの死は、暴力や混沌とともに記憶されるべきではない。真相が究明されるまで、私たちは皆、過激な行動ではなく自制心をもって彼の死に敬意を払うべきだ」と、冷静さを保つよう呼びかけた。》
香港デモ、学生死亡で深まる対立。実弾発射、議員襲撃...過激化に地元紙「暴力より自制心を」 | ハフポスト

 まあ当然の話ですね。事故原因が分からないわけですから。かつ仮に事故原因が「警察にある」としてもそのことは暴力行為のエスカレートを正当化する物ではないと思います。

 林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は今週、習近平*5国家主席から抗議活動の取り締まり強化を指示されている。
 きょう9日は抗議活動が始まって5カ月になるが、香港の今後がますます見えなくなってきた。

 国際的批判の恐れを考えれば中国は軍投入のような超強硬手段を執れない。しかし一方でデモ隊の方も主導権を握れる展望はなく事態が硬直化していると言うことですね。
 こうなると「当初目的『条例案撤回』が達成された時点でいったん引くべきだったのではないか」という気持ちになります。引かずに「行政長官の直接選挙(そしてその前に現長官の引責辞任)」という「中国が飲むとは思えない」新目標を掲げ、デモを続行したが故に「引くに引けない状況」にデモ隊が追い込まれてるように見えます。

*1:著書『増補改訂版 たましいのケア』(共著、2009年、いのちのことば社)など

*2:邦訳は岩波少年文庫、角川文庫、講談社文庫、新潮文庫

*3:立憲政友会幹事長、第4次伊藤内閣逓信相、第1次、第2次西園寺、第1次山本内閣内務大臣などを経て首相

*4:ただし、ろくな根拠もないのに事件発生当初から、当時の吉田内閣が不当にも松川・三鷹事件について「共産党の犯行の可能性」を言い立て共産党潰しを画策したのは事実です。

*5:福州市党委員会書記、福建省長、浙江省党委員会書記、上海市党委員会書記、国家副主席、党中央軍事委員会副主席、国家中央軍事委員会副主席などを経て党総書記、国家主席党中央軍事委員会主席、国家中央軍事委員会主席

「珍右翼が巣くう会」に突っ込む(2019年11/9分:島田洋一の巻)

島田洋一
 戦前の日本なら、とうの昔に武力で北朝鮮政権を倒し、拉致被害者のみならず朝鮮民衆一般を暴政から解放していた*1だろう。良かれ悪しかれ平和憲法」以前の日本には「究極の力」を発動する用意があった。

 呆れて二の句が継げないですね。これが巣くう会副会長というのだから拉致が解決しないのも当然でしょう。しかし、こんな男が巣くう会副会長なのに「孫娘ウンギョンの命をなんだと思ってるんだ!。島田は、巣くう会はふざけんな!」といえない横田一家も哀れな連中です。
 「あなた方も島田氏と同意見なのですか?。武力で北朝鮮を転覆したいのですか?」と聞かれたら、横田一家はどう答える気なのか。
 そして巣くう会が本気で「我々は北朝鮮転覆なんか考えてない(過去の巣くう会の公式発表)」というならこうした暴言を吐く島田を巣くう会副会長から更迭すべきでしょう。もちろん更迭しないし、だからこそ巣くう会の本心が「北朝鮮政権転覆」という極めて極右的な物であることがモロバレになるわけですが。
 かつ、この島田の暴言は「島田にとって九条改憲とは北朝鮮を軍事転覆することが目的(そして可能ならばロシアや中国も軍事転覆したい?)」としか理解できない代物です。改憲極右・安倍*2ですら面と向かって「あなた方自民党改憲目的は北朝鮮政権の軍事転覆なのですか?」と聞かれればさすがに「その通りです」とはいわないでしょう。
 いや安倍に限らず大勲位・中曽根*3だって、前原*4や細野*5だって、他の誰だってよほどの極右でない限り「北朝鮮政権を軍事転覆したいから改憲したい」とはいわないでしょう。そんなことを言っても「改憲の妨げ」にしかならないからです。そんな目的の改憲を支持する人間はよほどの極右以外どこにもいない。
 島田のキチガイぶりは本当に常軌を逸していますね。そしてこんな「非常識極右」島田を「巣くう会副会長」の肩書きで放言できるようにした巣くう会&家族会にも心底呆れます。

島田洋一
世耕「閣僚席から答弁ではない不規則発言をするのは適切ではない。常にカメラの向こうには国民の目がある*6と意識することも重要ではないか」。
 余りに次元の低い「質問」はたしなめて構わない。世耕氏はもっと適切な注文を付けるべきだ
自民・世耕氏 首相のヤジは「適切ではない」 - 産経ニュース

 「第一次安倍内閣首相補佐官(広報担当)」「第二次、第三次安倍内閣官房副長官」「第四次安倍内閣経産相」「現在、自民党参院幹事長」という「安倍の子分」世耕ですらかばわない「安倍のヤジ(不規則発言)」を「何の問題もない」というのだから島田も呆れたバカです。

 

*1:マジレスすれば戦前の日本ですらそんなことをしたかどうか。北朝鮮の反撃で相当の犠牲が確実に予想されるからです。

*2:自民党幹事長(小泉総裁時代)、小泉内閣官房長官などを経て首相

*3:岸内閣科学技術庁長官、佐藤内閣運輸相、防衛庁長官、田中内閣通産相自民党幹事長(三木総裁時代)、総務会長(福田総裁時代)、鈴木内閣行政管理庁長官などを経て首相

*4:鳩山内閣国交相菅内閣外相、野田内閣国家戦略担当相、民主党政調会長(野田代表時代)、民進党代表など歴任

*5:野田内閣環境相民主党幹事長(海江田代表時代)、政調会長岡田代表時代)、民進党代表代行(蓮舫代表時代)など歴任

*6:それ以前に質問者に対して失礼でしょう。「国民が見てなきゃ野次を飛ばしてもいいのか」と聞かれたら世耕はどう答える気でしょうか?

三浦小太郎に突っ込む(2019年11月9日分)

【12月21日 東京】アジア自由民主連帯協議会 主催講演会並びに忘年会のお知らせ | 一般社団法人 アジア自由民主連帯協議会

 今、ウイグル東トルキスタン)では、全土を収容所にするほどの弾圧体制が強化され、中国政府の民族絶滅政策が進行中です。このような国が、2022年の冬季オリンピックを主催することは、オリンピック精神にも、世界人権宣言の精神にも反することです。今後のウイグル運動の展開の一つとして、2022年北京オリンピックへの抗議行動をいかに展開するか

 吹き出しました。「2022年の北京冬季五輪」なんて「約3年以上先」の話はとりあえず「今のウイグル問題」とは直接の関係はないでしょうにねえ。これが「今年の冬」「来年の冬」とか間近ならまだ分かりますが。
 まあそれはともかく「五輪精神」つうなら「ホワイト国除外」なんて無法を隣国・韓国に仕掛けてる日本で来年、東京五輪やる方がよほど「五輪精神」に反してるでしょうよ。
 まあ俺は五輪精神なんて嘘八百だ、IOCの連中の頭にあるのはスポーツ利権(つまり金儲け)のことだけだと思ってますし、だからこそ「ホワイト国除外」を理由に五輪返上を安倍に求めたりもしないとは思いますが。
 中国で五輪やるのだって当然「人口の多い中国でスポーツを広めて金儲けしたい」つう思惑があるでしょう。だからこそ三浦が何ほざこうが2022年に北京冬季五輪はされるでしょうし、それを三浦らウヨもよく分かってるでしょう。
 正直、IOCの現状が腹立たしいですね。五輪精神とか平和の祭典とか、きれい事抜かしてても、利権まみれで薄汚いわけですから。

【参考:北京冬季五輪

北京冬季五輪のマスコットを発表、パンダをイメージ - 産経ニュース
・2022年北京冬季五輪パラリンピック組織委員会は17日、パンダと灯籠をイメージした大会マスコットを発表した。
・発表の式典であいさつした陳吉寧*1北京市長は「(マスコットは)世界文明の交流、相互理解を進める美しい願いを表現した」と強調。式典には韓正*2筆頭副首相と国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長も出席した。

*1:清華大学学長、環境相などを経て北京市

*2:上海市長、党委員会書記などを経て第一副首相(党中央政治局常務委員兼務)

今日の朝鮮・韓国ニュース(2019年11月9日分)

国連制裁決議にも従わず......北朝鮮とウガンダのディープな関係 | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

・記録によると、ウガンダ北朝鮮の政府高官が初めて正式な会合を持ち、協力関係を結んだのは1972年4月。ウガンダ軍幹部の使節団が、平壌で開かれた軍事式典に出席したときだ。ここで北朝鮮ウガンダは3つの協定を結んだ。それぞれ軍事交流を進めること、ウガンダ北朝鮮からの武器購入について、そして北朝鮮ウガンダの軍事施設を建設する可能性を探ることが定められていた。
 以後、アミン*1が失脚する1979年まで、北朝鮮ウガンダの関係は軍事援助を中心に深まっていった。それだけではない。アミン後に権力を握った大統領たちも皆、北朝鮮との協力関係を維持した。
 ウガンダではアミンが亡命し、短命政権が続いた後、ミルトン・オボテ*2が権力を掌握した。だがオボテは、1971年にアミンによって1度倒された人物だったため、国民抵抗軍をはじめとするゲリラ組織が直ちに反政府活動を開始。国内の治安は急激に悪化した。
 困ったオボテは、1981年末に平壌を「親善訪問」して、北朝鮮に助けを求めたらしい。両国は新たに、教育、技術、文化、そして軍事をカバーする幅広い協力協定を結んだ。
 だが、1986年1月に(ボーガス注:反政府勢力「国民抵抗軍」指導者)ヨウェリ・ムセベニ*3率いる反政府勢力が首都カンパラを制圧。ムセベニは大統領就任演説で、オボテに忠誠を誓っていた国軍の兵士たちに軍にとどまるよう呼び掛けた。
 その結果、オボテは国外に亡命したが、国軍はほぼそのままの態勢でムセベニの指揮下に入った。このとき、ムセベニは歴代政権の手に入れた北朝鮮製武器も管理下に置いた。これがきっかけとなり、ムセベニは北朝鮮軍高官をウガンダに招き、武器の使い方を教えてほしいと頼んだ。こうして1988年、北朝鮮ウガンダの警察に武術の訓練を施すとともに、海兵隊の育成を支援し始めた。
・両国関係は深化し続け、ムセベニは1990年と92年に平壌を訪問し、北朝鮮建国の父・金日成*4(キム・イルソン)にも会っている。
 その後、北朝鮮ウガンダ海兵隊育成と警察の訓練を続ける一方、両国は武器開発協力を拡大させていった。ウガンダが1990年代に入り、独自の武器開発・生産に力を入れるようになったからだ。ウガンダ中部のナカソンゴラに今では悪名高い軍需工場ができたのは、こうした背景があったからだ。
・2000年代に入り、米政府が「グローバルな対テロ戦争」でウガンダと協力し始めると、北朝鮮の支援がさらに疑われるようになった。ウガンダは米政府と国連の査察官がナカソンゴラ工場に立ち入ることを拒否したのだ。2007年にようやく査察を受け入れたものの、ごく一部の工程を見せるにとどまった。
 米政府は2004年からウガンダに対し、機密扱いになっている軍事関連予算の開示を求めた。そこから北朝鮮との防衛上の協力関係を示す情報を引き出せると考えたからだ。ところが2007年には開示請求を打ち切った。
 なぜか。当時のジョージ・W・ブッシュ*5米大統領北朝鮮の核の脅威も重視していたが、最優先に位置付けていたのは対テロ戦争だった。だから北朝鮮との関係が疑われても、アフリカ諸国の中でも際立って重要な対テロ戦争のパートナーであるウガンダを失うべきではないと考えたのだ。
 2009年6月、国連安全保障理事会北朝鮮の核実験を受けて、決議1874号を採択した。これにより北朝鮮は武器輸出を全面的に禁止されたが、採択後にウガンダ北朝鮮の軍事協力疑惑は解消するどころかむしろ拡大した。
 安保理北朝鮮制裁専門家パネルが2010年に提出した報告書を見れば、ウガンダが決議を無視して北朝鮮との関係を続けたことは明らかだ。
安保理決議に違反する取引は秘密裏に行われたものの、ウガンダ北朝鮮との友好関係を隠そうともしなかった。2013年6月には北朝鮮のリ・ソンチョル人民保安省副大臣ウガンダを訪問。
・また、同年7月に開催された朝鮮戦争休戦協定締結60周年を記念する式典に出席するため、ウガンダエドワード・セカンディ副大統領が北朝鮮を訪問。さらに1年余り後、当時の北朝鮮最高人民会議常任委員長だった金永南*6キム・ヨンナム)がカンパラに4日間滞在し、ムセベニ大統領とも会談。
・このように両国が大っぴらに示す協力関係には、制裁違反も多く含まれており、当然ながら韓国の注意を引いた。
 特に2013年2月に発足した朴槿恵(パク・クネ)大統領率いる韓国の保守政権は、ウガンダ北朝鮮の関係に神経をとがらせた。
 それが明らかになったのは、2016年夏に朴がアフリカのサハラ砂漠以南の4カ国を歴訪したときだ。朴は韓国の大統領としては史上初めてウガンダを訪問。ウガンダ政府と10を超える協定を締結した。
 協定は、ウガンダ北朝鮮との協力を断ち切るという条件で結ばれた。ウガンダの政府高官がこれを否定したと報じられるなど情報が交錯したが、サム・クテサ外相がニュース番組で正式に北朝鮮との協力関係の中断を認めた。
 2017年1月に誕生したドナルド・トランプ米政権は、北朝鮮政策の方向を転換し、あらゆる国に北朝鮮との協力関係を完全に断ち切るように迫り始めた。
 ウガンダに対する圧力もさらに高まった。同年8月には北朝鮮からの石炭や海産物などの輸入を全面的に禁止する国連安保理決議第2371号が採択され、アメリカは北朝鮮包囲網を狭めていった。
 同年(2017年)9月に開催された国連総会でも北朝鮮は懸案事項の1つだった。各国の代表が演説で問題に言及するなか、ウガンダのムセベニ大統領も制裁決議を遵守していると強調した。しかし同時に、北朝鮮への好意と過去の関係への謝意も付け加えた。
 「北朝鮮への制裁を履行するという小さな問題に、ウガンダは従う。北朝鮮との貿易は必要ではない。ただし、過去にわが国の戦車部隊の構築に北朝鮮が協力してくれたことに感謝している」
 ウガンダはその後も、北朝鮮との数十年来の関係を中断したとする証拠を国際社会に示してきた。2018年1月に国連安保理に提出した報告書では、「市民権・移民局は北朝鮮の医師9人と空軍の指導官14人の入国許可を取り消した」「全ての軍事契約を解除している」など、具体的な措置を挙げている。
 ただし、ウガンダのこうした主張を、かなり懐疑的に見る人々もいる。
・2018年12月、ウォール・ストリート・ジャーナル紙が一部の懐疑論を裏付けるように、ウガンダ北朝鮮の関係が続いており、国連の制裁決議に違反していることを、現地の取材で詳細に報じた。
 ウガンダのある軍幹部は、(ボーガス注:ウォール・ストリート・ジャーナル紙に)精鋭部隊が北朝鮮の特殊作戦部門の協力で訓練を行っていると語った。
 記事によると、軍事以外の分野でも関係が続いている。ウガンダ国内で操業する北朝鮮の鉱業会社や建設会社は、ウガンダでの登録を「中国」あるいは「外国」企業に変更しているにすぎない。病院でも北朝鮮の医療関係者が数多く働いている。

 一応コメント抜きで紹介だけしておきます。


「北朝鮮=飢餓の国」という図式を疑うべきこれだけの理由(伊藤 孝司) | 現代ビジネス | 講談社(1/6)

・10月に北朝鮮朝鮮民主主義人民共和国)取材に行った。昨年に続き、今年も年3回の訪朝となった。10日の朝鮮労働党創建74年の祝賀行事と、15日のサッカーW杯アジア2次予選の北朝鮮と韓国との試合を取材するため13日間の滞在となった。
 ちなみに、結論からいうと、サッカーの試合の取材は出来なかった。
・「一切の取材ができない」との連絡を受けた。競技場の中だけでなく、その前での取材もダメだというのだ。
・インターネットで無観客試合だったことをすぐに知ったが、テレビでの中継どころか試合に関する報道は一切なかった。0-0の引き分けになったため、翌日にでも編集したものが放送されるのではと思ったが、それもない。
・試合を無観客にしたのは、米韓合同軍事演習や新兵器導入をする韓国の文在寅ムン・ジェイン)政権を完全に無視する姿勢を示すためだろう。
北朝鮮での取材先は、私が日本からリクエストした場所ばかりである。取材の意図を汲んで用意してくれることはあまりない。ところが今回は、希望を出していなかった「錦繍山(クムスサン)太陽宮殿」へ行くことが決まっていた。
 ここは、(ボーガス注:金日成国家)主席と(ボーガス注:金正日朝鮮労働党)総書記の遺体が安置されている、この国でもっとも重要な場所だ。木曜日と日曜日には外国人にも公開され、ちょうど祝日と重なったためセッティングされたのだろう。
・この国を初めて訪れた1992年にも、こうした光景はあったが、その当時と比べて今は、人々の服装がカラフルでおしゃれになった。そして決定的に異なるのは、スマホで写真や動画の撮影をするのが人々の日常的な行為になっていることだ。
・個人宅を取材するために「未来科学者通り」へ行き、高層アパート群を歩きながら撮影。
・訪ねた大学教授の自宅には、ピアノや冷凍冷蔵庫があった。これは(ボーガス注:田舎より豊かな)首都・平壌の最新アパートでの光景ではあるが、この国が緩やかではあれ経済発展を続けているのは確かだと感じた。
 平壌市郊外の大城山(テソンサン)西麓にある「中央動物園」へも行ってみた。平日は先生に引率された小学生が多い。爬虫類館には恐竜の頭の双眼鏡があり、子どもたちに大人気だ。
・園内には動物ショーを見せる施設があり人気になっているのだが、今年5月に見ようとしたら入場を断られた。それは今も続いている。「外国人は動物ショーを動物虐待だと非難するから」というのが理由だ。
 少し前まで撮影できたものが、次々と不可能になっている。
・市民たちがどのような食生活をしているのか取材したくて、何度か申請したものの許可が出ない。具体的な店名を挙げて交渉してもダメなのだ。それは、店側が拒否するからなのだという。
 新しくできた商業施設でオープン直後は自由に撮影させてくれたところでも、今はまったく不可能になった。「店内で写真を撮った外国人が、帰国後に事実と異なる発表をする」という話が伝わるからだという。
・そうした状況の中で、ある総菜売り場を何とか撮影することができた。食卓に欠かすことのできないキムチでさえ、工場で作られたものを買う時代である。総菜を店で買って帰る人も増えたという。
・稲刈り風景など簡単に撮影できると思っていたが、実に手こずった。それは、この国の農業制度の改革が関係している。
 2014年2月の「全国農業部門分組長大会」へ金正恩委員長が書簡を送り、「圃田(ほでん)担当責任制」の導入を宣言。「分配における平均主義は農場員の生産意欲を低下させる」として、労働に応じて分配での差別化をはかることが明確にされたのだ。
・この制度によって農場員たちの“やる気”は一気に高まった。
・稲刈りに合わせて取材日程を立てたつもりだったのに、どの農場も作業を一気に終わらせてしまったのだ。農作業中の人たちにインタビューしても、誰もがその手を止めようとしない。
・「社会科学院経済研究所農業研究室」の金光男(キム・グァンナム)室長は「今年は不利な天候だったが収穫量は増えた。山間部でも最高の収穫」と語る。
 ところが先ごろ、「国連食糧農業機関(FAO)」が「北朝鮮穀物生産量は5年ぶりの最低水準」との報告書を発表。10月23日の国連総会人権委員会では、トマス・オヘア・キンタナ*7北朝鮮人権担当特別報告者は「経済・農業政策の失敗により、人口の約40%にあたる1030万人が栄養失調で、3万人の子どもが死の危険に直面している」と報告している。
・私は以前から、北朝鮮の食糧事情に関する国連機関の報告は、実態とかけ離れているのではないかと思ってきた。(ボーガス注:北朝鮮が秘密主義で調査に協力的でないために?)それらの機関が地方で十分な活動ができないため実態を正確に把握できず、過大な数字を出しているのではないだろうか。
その結果、「北朝鮮=慢性的な飢餓の国」というイメージが定着してしまった。このことは、北朝鮮を冷静かつ客観的に捉えることを大きく妨げている。

 一応コメント抜きで紹介だけしておきます。
 なお、筆者の伊藤氏には『朝鮮民主主義人民共和国:米国との対決と核・ミサイル開発の理由』(2018年、一葉社)、『ドキュメント 朝鮮で見た〈日本〉:知られざる隣国との絆』(2019年、岩波書店)と言う著書があります。

*1:1925~2003年。軍参謀総長だった1971年、ミルトン・オボテ大統領の外遊中にクーデターで大統領に就任。1979年に失脚し、サウジに亡命。

*2:1924~2005年。ウガンダ独立時の首相(1962~1966年)。その後、大統領(1966~1971年、1980~1985年)

*3:1944年生まれ。1986年から現在までウガンダ大統領

*4:朝鮮労働党総書記、北朝鮮国家主席

*5:テキサス州知事を経て大統領

*6:朝鮮労働党国際担当書記、副首相兼外相、最高人民会議常任委員会委員長など歴任

*7:アルゼンチンの弁護士。アルゼンチン軍事独裁政権(1976年~1983年)に奪われた孫たちを捜す人権団体「五月広場の祖母たち」メンバー。国連ミャンマー人権担当特別報告者(2008~2014年)、国連北朝鮮人権担当特別報告者(2016年~現在)を歴任(ウィキペディア「トマス・オヘア・キンタナ」参照)