欧米(?)での松本清張

外国人が読みたくなる日本文学|日経BizGate
 (2)『Inspector Imanishi Investigates』は直訳すると「今西刑事が捜査する」で、正解は(10)『砂の器』(松本清張)。主人公の心情を描写した抽象的なタイトルは欧米では伝わらないとか。

 ちなみに欧米で無くて中国の話ですが、清張小説の翻訳については

松本清張作品、中国語名変更でベストセラーに--人民網日本語版--人民日報
 松本清張の代表作「球形の荒野」は、中国発売当初、まったく注目されなかった。出版会社の北京読客図書有限公司が今年、同書の書名を「一個背叛日本的日本人(日本を裏切った日本人)」と改め中国で再出版すると、カルチャー系SNS「豆瓣」の新書欄トップページに掲載され、10点満点で9.2点の高得点を獲得した。
 関係者は、「名作が売れない理由はさまざまだが、最大の原因は、読者がイメージしにくい難解な書名である。『球形の荒野』を再出版する際、当社は書名を『日本を裏切った日本人』と改めた。この書名は物語の内容を正確に要約しており、シンプルで読者も一目で理解することができる。当社は装幀のデザインにもこだわり、表紙では、純白をバックとした真っ赤な日の丸が刀に切り裂かれている。第二次世界大戦の敗戦前夜、ある日本人外交官の生死を賭けた闘いに関する物語の魅力が、読者に十分伝わってくる」と語った。

なんて話もあります。

会報2014年11月号 健さんのミステリアス・イベント探訪記 第44回映画『砂の器』主題歌、組曲『宿命』の演奏会とCD化をめぐって2014年3月30日 東京芸術劇場7月23日 CD化発売|日本推理作家協会
・今年2014年の夏も各国の作家、ミステリ研究家が集まる国際推理作家協会(AIEP)に参加してきた。
・食事の席などでは日本のミステリについて積極的に語りかけてくれる研究者もいる。英国のボブ・コーンウェルさんもそのひとりで、浜尾四郎なんて読んでいて(短編の翻訳が出ている)、それについての質問をeメールで送ってくるほどの物知りだ。そのボブが、日本のミステリの注目作はなんといっても、セイチョー・マツモト(松本清張)の"Inspector Imanishi Inventigates(今西警部は推理する)"だと主張する。それで、原作もいいが、あの映画化も素晴らしかった、とコメントする。
 『今西警部*1は推理する』って何かというと、これが『砂の器』の英訳題名なのである。欧米のミステリ読者は運命のドラマというより、(ボーガス注:映画で)淡々と語られる警部の捜査行の方に興味があるようだ。帰国して、以前、買い求めてあった英訳本を見ると、その裏表紙に各紙絶賛の書評抜粋が載っている。
 いわく「メグレ警視*2ダルグリッシュ*3ものの隣に置くべき本」「戦後の混乱から経済的に立ち直ろうとする日本の社会背景を描く、ディケンズバルザック的な試み」(清張さん、こんな批評を知ったら喜んだことだろう)なかには「スタウトの構造をもつエルモア・レナードのタッチ」なんてよく分からない表現もある。
 いずれにしても、欧米のミステリファンにそれなりの一石を投じた作品だが、日本ではやはり映画『砂の器』の成功だろう。
 ボブいわく、あのラスト40分。謎の解明が、コンサート会場、捜査会議、回想シーンの3つのモンタージュで進む構成は類例がない、と絶賛だ。たしかに忘れがたい趣向だった。

第14回 日本のミステリー小説の仏訳状況(執筆者:松川良宏) | 翻訳ミステリー大賞シンジケート
◆日本のアガサ・クリスティー、日本のジョルジュ・シムノン、日本のフレデリック・ダール
 横溝正史は英訳は『犬神家の一族』のみ。フランス語訳は『犬神家の一族』『八つ墓村』『悪魔の手毬唄』の3作がある。フランスのミステリー作家のポール・アルテによると、横溝正史はフランスでは(クリスティ『ABC殺人事件』にヒントを得たとされる『八つ墓村』、クリスティ『そして誰もいなくなったマザーグース見立て殺人)』にヒントを得たとされる『獄門島芭蕉の俳句・見立て殺人)』『犬神家の一族(斧・琴・菊の見立て殺人)』『悪魔の手鞠唄(手鞠唄見立て殺人)』『病院坂の首縊りの家(生首風鈴)』によって?)「日本のアガサ・クリスティー」と呼ばれることもあるらしい(南雲堂『本格ミステリー・ワールド2009』、p.126)。
 松本清張の長編の英訳は『点と線』『砂の器』『霧の旗』の3作。フランス語訳は『点と線』『砂の器』『聞かなかった場所』の3作。清張はフランスでは「日本のシムノン」として売り出されていて、その愛称がそれなりに定着しているようだ。
 西村京太郎の長編の英訳は『ミステリー列車が消えた』のみ。フランス語訳は『ミステリー列車が消えた』のほか、『名探偵なんか怖くない』がある。ポール・アルテによると、西村京太郎はフランスでは「日本のフレデリック・ダール」と呼ばれることもあるそうだ(南雲堂『本格ミステリー・ワールド2009』、p.126)。

第6回『メグレと深夜の十字路』(執筆者・瀬名秀明) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート

 犯罪の動機といえば、家庭の平和、社会に対する反逆、コンプレックス、社会的地位の挫折、スキャンダルなど数限りなくある。こう書くと賢明な読者は既にお気づきと思うが、松本清張氏の提唱と実践によって日本の推理小説界を風靡している、いわゆる社会派推理小説と(ボーガス注:シムノンが)類似していることに気がつかれるだろう。

 私は、松本清張に言及した松村喜雄*4の文章を引いた。松本清張という作家の資質が本当にシムノンと似ているかどうかはわからない。だが、この本の帯に記されていた松本清張氏の一文は素晴らしい。

 シムノンはわたしの若いころに感動を与えてくれた一人である。それまで翻訳探偵小説といえばポウコーナン・ドイルしか知らなかったが、シムノンを読んでこのように極限状況を描いて香気のある作品もあったのかと思った。シムノン作品に漂う虚無的で抒情的な雰囲気は、その繊細な知性の上に夜霧のように立ち昇っている。

 なかなか面白いと思うので一応紹介しておきます。

*1:映画では丹波哲郎が演じた

*2:ジョルジュ・シムノン - Wikipedia作品に登場する警視

*3:P・D・ジェイムズ - Wikipediaの作品に登場する刑事

*4:1918~1992年。東京外国語学校(現在の東京外国語大学)仏語科卒業後は外務省に勤務。公務活動の傍ら、文筆活動を行い、1962年、「花屋治」名義で推理小説『紙の爪痕』(光風社)を発表、第7回江戸川乱歩賞候補となる(ちなみにこの時の受賞作は陳舜臣『枯草の根』(1961年、講談社))。1978年に外務省を退官すると文筆業に専念、これ以降は本名で原稿を発表。1986年に、著書『怪盗対名探偵:フランス・ミステリーの歴史』(1985年、晶文社→2000年、双葉文庫日本推理作家協会賞受賞作全集)で日本推理作家協会賞評論部門を受賞

島田洋一に突っ込む(2020年8月6日分)

島田洋一
 収監すればよい。独裁体制がつぶれ、逮捕された時、習近平の罪が重くなるだけだ
香港民主派の周庭氏、12月以降に量刑言い渡し 「収監されるかも」 - 産経ニュース
 香港の裁判所で5日、違法集会を扇動した罪などに問われた民主活動家、黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏(23)や周庭(アグネス・チョウ)氏(23)ら3人の公判が行われた。周氏は起訴内容を認め、12月1日以降の公判で量刑が言い渡されることになった。
 周氏は7月の前回公判でも起訴内容を認めており、この日、量刑が言い渡される可能性があった。しかし検察側の要求により、起訴内容を認めていない他の2人の審理を終えた上で、量刑の言い渡しが行われることになった。
 周氏は公判後、有罪と決まったのかとの報道陣の質問に、「私が罪を認めただけだ。結果がどうなるのか分からない。収監される可能性もある」と述べる一方、「香港人の民主主義を守るためにこれからも頑張っていく」と語った。
 周氏ら3人は香港警察の本部前で昨年6月21日、逃亡犯条例改正案の撤回を政府に求める抗議デモに参加し、演説するなどした。昨年8月末に逮捕・起訴され、保釈されていた。
 周氏だけが起訴内容を認めたのは、情状酌量を求めて実刑判決を免れ、民主化運動を続けるための法廷戦術の一環とみられる。

 「収監なんて不当だ、阻止しよう(無罪がベストだがそれが無理でも、より軽い罰金刑や執行猶予付き刑を目指そう)」でも「収監されても早期に解放させよう」でも「収監を阻止できないかもしれない点が非常に申し訳ない」でもない点が酷いですね。
 仮に収監中に「劉暁波」のように病死したとしても「独裁体制がつぶれ、逮捕された時、習近平の罪が重くなるだけだ」で「別にOK」というのが島田なんでしょう。別に「習近平の罪が重く」なれば、周庭が酷い目に遭ってもいいという話でも無いでしょうに。ましてや「独裁体制がつぶれ、逮捕された時、習近平の罪が重くなる」保証もないわけです。
 スターリンなど「別に罰も受けずに天寿を全うした独裁者」は山ほどいますし。

今日の産経ニュース(2020年8月6日分)

【正論 戦後75年に思う】不安と恐怖の虜囚となるなかれ 拓殖大学学事顧問・渡辺利夫 - 産経ニュース

 過日、旧知の精神科医と一杯やる機会があった。「このところ新規感染者数が増え第2波がやってきたということなんでしょうかね」と問う。氏は「そんなこともないでしょう。数百人くらいで高止まりしてオーバーシュートはないんでしょうね」という。多少安堵して「どうしてそうなんでしょうね」といえば「もう日本人の相当多くが抗体を獲得しているんだ*1と思いますよ。渡辺さんね、ひどいのは(ボーガス注:コロナの感染者増加より)不安障害や強迫観念の広がりの方ですよ。私の実感ではエイズの時よりもひどい神経症が広がってるんじゃないかな。そのうち日本の社会がパニック症候群を引き起こすんじゃないかと心配しています。深刻なのは新型コロナウイルス感染そのものじゃなくてこちらの方ですよ」という。大体同じように考えていた私には随分と得心のいく話だった。

 「ウヨ仲間の岡本行夫」がコロナで死んでるのに、産経もよくもまあここまでコロナを舐めた文章を掲載できるもんです。「集団免疫」なんてことは何一つ証明されてないのに。安倍が「さすがに東京は除外した」とはいえ、野党などの批判を無視して「goto」なんぞやってしまう理由の一つはこうした「産経文化人のコロナ軽視の悪影響」かもしれません。とはいえ「専門家の多くがそんな説に立ってないこと」もあり、安倍もさすがに集団免疫説を公言するほど無茶苦茶ではありませんが。 
 それにしても「コロナを舐めてる産経」が「北朝鮮の核ミサイルガー」つうのはどう見ても「口から出任せの嘘八百」でしょう。


朝日新聞、首相会見の質問制止抗議「職員が腕つかんだ」 官邸は否定 - 産経ニュース
 事実なら全くとんでもない話です。


【主張】少年法の適用 成人年齢と揃えるべきだ - 産経ニュース
 産経らしい情緒的な厳罰論でありいつもながら呆れます。

*1:いわゆる「集団免疫説」のこと。

今日の中国ニュース(2020年8月6日分)

論考「現実の人を以て主体となす:中華文明知識体系の本質的特徴」|コラム|21世紀の日本と国際社会 浅井基文のページ
 浅井先生の言ってることは、非常にアバウトに平たく言えば「白猫でも黒猫でもネズミを捕るのが良い猫だ(鄧小平)」という実利主義、経験主義の重視が「中国共産党誕生前」から続く「中国伝統思想の流れ」であり、「文革毛沢東はむしろ異端だという話です。
 そしてこの実利主義、経験主義から中国共産党は「我が国は発展途上国であり当面、国が果たすべき最大の目的は経済の発展と福祉の向上である(欧米が騒ぎ立てる民主主義云々では無い)」と考えてるからこそ欧米の「民主主義云々」の批判にも動揺しないのだというのが浅井先生の見方です。
 詳細はリンク先をお読み頂ければと思います。


「 もっと危機感を、逆ニクソン・ショック 」 | 櫻井よしこ オフィシャルサイト

 それまで全く国交のなかった中国を、ニクソン大統領が翌72年春までに訪問する、とわが国は発表3分前に知らされた。

 よしこのいう「3分前」ですが、

ニクソン大統領の中国訪問 - Wikipedia
 ニクソン大統領はある理由から訪中について日本への事前連絡を直前までしなかった。当時ニクソンは日米繊維問題で「日本繊維業の対米輸出規制」に全く動かない佐藤首相に怒っていたと言われていて、国務省は発表1日前に前駐日大使だったウラル・アレクシス・ジョンソン国務次官を日本に派遣しようとしたがニクソンは反対して、ジョンソン次官は急遽ワシントンに駐在している駐米大使の牛場信彦に声明発表のわずか3分前に電話連絡で伝えた。後にジョンソン次官は日米両国の信頼関係と国益を損なったとニクソンを批判している。

ニクソン・ショック - Wikipedia
 世界を揺るがす経済政策の変更が突然発表された時に、まだこの時点では欧州も市場が開いておらず、為替相場の混乱を回避する方策を検討し閉鎖する余裕があった。しかし日本はすでに為替市場が開いている時間であったので日本市場だけが混乱する1日となった。
 後にニクソン大統領は、1971年の「金とドル交換停止」について日本に直前まで連絡しなかったことについて、1969年の沖縄返還交渉で、佐藤首相が約束した「日米繊維問題での誠意ある行動」、すなわち繊維製品の輸出を自主規制する約束を実行しなかったことで「約束違反をした佐藤首相にわざと恥をかかせた」と発言している。
 この1971年夏頃にニクソン大統領が佐藤首相に対して相当怒っていたことは当時、駐米日本大使館審議官だった岡崎久彦も読売新聞紙上でも述べており、もう一つのニクソンショック(電撃的な中国訪問発表)も同じように直前まで全く日本側に連絡が無かった。

だそうです。


リベラル21 モンゴル語を失うモンゴル人(阿部治平)

 今回のモンゴル語のあしらいかたに対しては、今後もモンゴル人*1からの異議申立てはあるだろうが、それは蹴散らされ、漢語による学校教育によってモンゴル人の漢語使用人口は一層増加を続けるだろう。(ボーガス注:中国においては)ウイグルやカザフ*2チベット同様、モンゴル文字*3もモンゴルの歴史も、ただ研究の対象としてだけ存在することになるだろう。

 「状況を改善しよう」「国際社会や日本政府は中国を批判して欲しい」ではなく「もう、どうにもならない」と阿部とリベラル21が完全に諦めモードであることが興味深いですがそれはさておき。
 この記事が事実としても「日本にもアイヌ同化の歴史がある」「今だに日本会議アイヌ同化を正当化している」「朝鮮学校無償化除外問題」などがあるので、それを棚に上げて中国批判する気には余りなりません。個人的には阿部やリベラル21に「日本での少数民族の言語教育問題」をどう考えるのか聞きたいところです。
 まあ、ゴールデンカムイ - Wikipedia国立アイヌ民族博物館 – 国立アイヌ民族博物館などを考えればアイヌを巡る状況は改善されてるとは思いますが。朝鮮学校については「微妙」ですが裁判闘争を支援する日本人の存在など考えれば安易な楽観論は禁物ですし、「俺の願望込み」ですが「希望が無い」わけでもないでしょう。


ワンビン監督の『死霊魂』を観てきた - 高世仁の「諸悪莫作」日記

 王兵(ワンビン)監督の8時間超の大作、『死霊魂』を観てきた。
 《いまだ明らかにされていない中国史の闇、〈反右派闘争〉。》

 とはいえ、この拙記事のコメ欄で

 ただ反右派闘争も大躍進も1950年代の話ですからね。いまとなっては60年以上昔の話で、文革以上に現在の中国共産党の問題とはそぐわないんじゃないんですかね(苦笑)。

と言う指摘があるように

◆日本において南京事件否定論慰安婦否定論、沖縄集団自決・軍強制否定論があるからと言って誰も自衛隊が『現代版南京事件慰安婦、集団自決強制』を今後やらかすとは思わない
◆台湾において国民党が228事件について取り上げることに消極的だからといって誰も今後、国民党が政権を取ったときに台湾で『現代版228事件』をやるとは思わない

のと同様、これは「過去の黒歴史を暴きたがらない」と言う話であって「中国においてああしたことが起こる可能性」はもはやないでしょう。そう言う意味では「反右派闘争の追及」とは「日本における南京事件慰安婦、沖縄集団自決・軍強制の追及」「台湾での228事件追及」などと同じような話でしか無い。また、昔に比べれば「時間の経過」により「天安門事件」「劉暁波問題(政治犯として獄中で病死し、欧米から批判)」等の「比較的最近の事件」に比べれば反右派闘争の追及が「やりやすい」点にも注意すべきでしょう。

《2005年から2017年までに撮影された120人の証言、600時間に及ぶ映像から本作は完成した。》(公式サイトの解説より)

 一般的には「3時間を越えると大作扱い」され、商業展開にも支障が出る(映画館側がいい顔をしない)のに「8時間」ですか。
 ちなみに「反右派闘争」が起こるのは俺の理解では

1)先日の「つくる会教科書検定で「建国時(1949年)の中国は連合政権」という検定意見がついたことで分かるように建国当初の中国は共産党の支配権はまだ弱かった
2)そんな中、フルシチョフスターリン批判(1956年)が中国共産党を直撃。中国国内でもその影響で毛沢東中国共産党への批判が高まり、毛が「百花斉放百家争鳴」によるガス抜きを計画
3)しかし毛が想定した以上に批判が高まったため「体制の危機」と感じた毛が「反右派闘争」と言う形で弾圧に転じた

と言う流れですね。単純に「中国共産党が弾圧した」と認識することは適切では無い。「体制の危機」と認識したから毛沢東は反右派闘争に打って出たわけです。
 「スターリン批判の影響による共産党批判の高まり→反右派闘争」と言う流れ(外国の影響による中国国内での政変)は「東欧の自由化による共産党批判の高まり→天安門事件」という流れに似ている気もします。
 なお、高世の言う「反右派闘争」ですが「大躍進という経済失政による餓死者」と「反右派闘争という言論弾圧による死者」は一応わけて考えるべきでしょう。

 1989年の「天安門」の弾圧のあと、鄧小平は「200人の学生の死は、20年の国家安寧をもたらす」と言ったが、これは今も中国共産党の姿勢に引き継がれている。鄧小平こそ、反右派闘争のときの共産党総書記だったのである。

という高世ですが「劉少奇国家主席周恩来首相、鄧小平副首相のトリオによる大躍進の修正(毛沢東は党主席には残留するが国家主席は引責退任し、劉少奇国家主席に就任)→文革劉少奇とともに資本主義者として毛沢東によって打倒される(劉少奇医療ネグレクトにより持病の糖尿病が悪化し、文革中に非業の死を遂げる)→文革終了後、復権。経済の改革開放」という鄧小平の人生や、彼の言葉「白猫で黒猫でもネズミを捕るのが良い猫だ」を考えれば、彼は「言論抑圧(反右派闘争など)は国家運営のために仕方が無い」とは考えてはいても「大躍進のような経済失政」を是とする人間では無かったわけです。
 そして今、中国は経済大国です。
 高世が紹介する鄧の言葉

「200人の学生の死は、20年の国家安寧をもたらす」

天安門事件から20年以上経った今「ある意味、正しかった」といえるでしょう。もちろん「経済繁栄のために天安門事件が許されるのか」「経済繁栄ができなくても言論の自由が大事だ」という価値観はあり得ますが。

 私は、このたびの香港の民主運動つぶし、引き続くチベットウイグルでのジェノサイド*4、7000万人とされる法輪功*5の弾圧(「馬三家からの手紙」は恐ろしいドキュメンタリーだった)など、中国共産党の人権弾圧の淵源を大躍進期に見ている。

 つながりがあると言えば、まああるでしょう。ただし当然ながら「ストレートにつながってるわけでは無い」。
 「近代日本最初の対外戦争」台湾出兵(1874年)がその後の「日清戦争」「日露戦争」「シベリア出兵」「日中戦争」「太平洋戦争」と「つながりはあるがストレートにつながってるわけでは無い」のと同じです。
 なお、「人権弾圧」というなら「規模の問題はひとまず置けば」遡ればもっと遡れるとは思いますけどね。
 高崗 - Wikipediaの失脚なども「謎の多い事件」のようですし。なお、「高崗 - Wikipedia復権を企んだ」として「習近平・中国国家主席」の父である「習仲勲副首相(当時)」らが失脚したのが反党小説劉志丹事件 - Wikipediaです(なお、文革終了後、冤罪であるとされ、習仲勲は政治的に復権した)。
 小説『劉志丹』を「反党行為」として処罰したこの事件(1962年9月:時期的には反右派闘争と文革の間)は

文化大革命 - Wikipedia
 1965年11月10日、姚文元(いわゆる四人組の一人)は上海の新聞『文匯報』に「新編歴史劇『海瑞罷官』を評す」を発表し、京劇『海瑞罷官』に描かれた海瑞による冤罪救済は反革命分子らの名誉回復を、悪徳官僚に没収された土地の民衆への返還は農業集団化・人民公社否定を意図するものと批判して、文壇における文革の端緒となった。

という後の『「海瑞罷官」批判による文革開始』に「ヒントを与えたのではないか」ともされます。また、習近平氏が「国家主席、党書記」になった今、「彼の父」が迫害された事件という意味でも注目されるわけです(習仲勲本人も副首相、全人代副委員長などを歴任した重鎮ですが)。

 これから、折にふれ、「中国共産党研究」を書いていきたい。

 コメ欄でも「同感」という趣旨のコメントを頂きましたが、また「研究」とは大きく出たもんです(苦笑)。まあ高世のことだから悪口雑言しかしないのでしょうが(この高世の文も悪口雑言でしか無いですしね)。しかし高世は今後は「反北朝鮮」よりも「反中国」で食っていくことに決めたようですね。

*1:もちろん「内モンゴル人」。

*2:勿論カザフスタンは話が別です

*3:勿論、外モンゴルは話が別です。

*4:さすがに高世の言うジェノサイドとは「物理的ジェノサイド(大量虐殺)」では無くいわゆる「同化政策(民族文化の否定)」ですが。なお、中国政府は同化政策などしていないと反論しています。

*5:以前も澤藤統一郎の「常軌を逸したアンチ中国」を嗤う(2020年7/15日分)(副題:法輪功は間違いなく邪教ですよ!、澤藤さん)(追記あり) - bogus-simotukareのブログで書きましたが「法輪功の反社会性」を無視して「中国政府の弾圧ガー」ばかりいうのは問題がありすぎると思います。

今日の中国ニュース(2020年8月5日分)

戦わざる国に独立なし 戦後75年-日本は呪縛を解くべき時 楊海英 - 産経ニュース

 戦後75周年を迎えても、敗戦国の日本は未だに戦争の呪縛から解かれていない。ここでいう呪縛とは二つある。一つは、如何なる戦争も絶対悪だという偏った見方*1が根強く残っていることで、これがために日本人の思想的源泉は枯渇してしまっている*2。もう一つは、現実離れした非武装*3が蔓延り、そのために日本の国家としての国際的立場を悪くしている*4ことだ。世界史的に見て、この二つの呪縛を解かない限り、先進国から転落*5するのも時間の問題だろう。

 有料記事なのでここまでしか読めませんが「ここまででも、非常にうんざり」「楊もここまで劣化したかとげんなり」ですね。
 「日本が先進経済国から転落するとしたら」楊がここで放言してるような軍国主義的な話では無くむしろ「科学技術の問題」でしょう。
 以前も別記事で触れましたが

“科学技術強国”中国の躍進と日本の厳しい現実|まるわかりノーベル賞2018|NHK NEWS WEB
 「科学技術力をたゆまず増強させれば、中国経済はもっと発展できる」
 中国の習近平*6国家主席が繰り返し強調している言葉だ。
 いま、中国は国を挙げて科学技術力の強化に取り組んでいる。
 文部科学省の科学技術・学術政策研究所によると、2016年の中国の研究開発費は45兆円余りと、10年で3倍以上に増えている。その額は日本の倍を超え、1位のアメリカに迫る勢いだ。
(日本:18.4兆円、アメリカ:51.1兆円)
 その成果は着実に形となって現れている。
 中国の研究論文の引用数は、2006年までの3年間の平均では世界で5位だったが、2016年までの3年間では2位に上昇。同じ時期に4位から9位に下がった日本とは対照的だ。
 躍進を続ける中国の科学技術。その担い手の確保にも抜かりはない。それが「千人計画」だ。
 恵まれた環境は、外国人研究者にとって大きな魅力だ。
 中国の名門、復旦大学の服部素之教授(36)は、日本やアメリカでタンパク質の構造などを研究していたが、3年前、「千人計画」に応募して中国にやってきた。
 大学からは、教授職と、5年間で1億円以上の研究費を提供され、10人の研究員や学生を率いて研究を続けている。
「日本だと、私の同僚で私より業績がある人でも、研究室をまだ持てないという人がたくさんいます。日本だとほぼ不可能な環境なので、非常に感謝しています」
 服部さんが指摘する中国の恵まれた研究環境。その1つが、高額な実験装置を大学側が学内の研究者向けの共有の機器として購入する点だ。
 日本ではそれぞれの研究室が予算を捻出しなければならないケースが多いが、大学側で購入してもらえれば、自分の研究費を学生の経済支援や消耗品代などに充てることができる。
 一方、日本の科学技術研究はどうなっているのか。現場を歩くと、躍進を続ける中国と対照的に悲痛な声が相次いでいた。
 使えなくなる機械。減っていく研究者。いずれも背景にあるのは大学の資金不足だ。
 国は10年余り前から、競争力があると見込まれる分野に研究予算を選択的に投入。その一方で大学の運営費は減り続けている。
 静岡大学*7の場合、この13年で13億円削られた。
(H16年度:108億円、H29年度:95億円)
 危機感を募らせているのは地方大学だけではない。
「ここ数年、『先に論文を出された』と思って調べると、たいていは中国人なんです。ネイチャーやサイエンスなどの科学誌に論文を出しても、必ずっていうほど中国人に負けるんですね」
 こう話すのは、東京大学大学院理学系研究科の濡木理教授。
 濡木教授は、近年、中国の急成長を肌で感じている。
 その背景にあるのが豊富な資金力だという。
 たとえば、「クライオ電子顕微鏡」という最新鋭の装置。定価は1台10億円で、東京大学でも配備されたばかり。国内でも5台しかないが、中国ではすでに数十台も稼働しているのだ。
「研究者の数と研究費、それはすなわち設備になるわけですが、それらが大量に投入されると、どうしても負けてしまうという状況ですね。もうわれわれも抜かされていますね」
 もう1つ濡木教授が危惧しているのが、日本の将来を担う若い研究者の海外流出だ。
 実は、「千人計画」で復旦大学に移った服部素之教授は、かつての濡木教授の教え子。
 服部さんの研究室の映像を見た濡木教授は、こうつぶやいた。
「これではみんな、中国に行ってしまいますよ。こういう環境は、日本はさせてくれない。彼は中国に行ってよかったのでしょう。日本のことを考えると残念ですけど」
 中国の科学者は、日本の現状をどう見ているのか。
 中国科学院の穆栄平書記が語ったのは、日本の科学のすそ野の広さへの敬意だった。
「日本は、生命科学、化学、物理学、環境問題など、多くの分野で今も世界のリーダーです。毎年のようにノーベル賞も受賞しています。これからもっと日本と一緒に共同研究を行いたい」
 しかし、日本の科学研究の行く末が危ぶまれる中、穆書記が語るような世界のリーダーであり続けられる保証はない。

中国が科学技術で急速に日本に追いついた理由 研究者は日本の2倍、研究費は1.4倍 | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)
 20世紀末まで、中国の科学技術は欧米日に大きく遅れていた。それが今世紀に入るや急速に発展し、いまや日本と肩を並べ、欧米にも肉薄してきた。
 どうして中国はこのように急激な科学技術の発展を遂げたのであろうか。
 まず挙げなくてはならないのは、豊富な研究開発資金である。図表4は、2000年と2016年の主要国の研究開発費の絶対値(IMFレートによる円換算)と増加倍率を示したものである。2000年では米国の30分の1、日本の14分の1程度であった中国の研究開発費であるが、2016年では2000年比約21倍となって世界第2位となり、米国の半分近くとなっている。
 研究開発費の増大に伴い、中国のトップレベル研究室には、欧米や日本の研究室以上の実験機器、分析機器などがずらりと並んでいる。
 もう一つ、何といっても、中国の科学技術上の強みは、科学技術人材にある。図表5に示したように、2000年で70万人前後と日本と同等であった研究者数が、2016年現在で約169万人を数え、米国の約138万人(2015年)、日本の約85万人を抜いて世界一となっている。
 日本は中国との科学技術協力を積極的に実施すべきである。日本の科学技術関係者は、これまで長く中国を科学技術の発展途上国として見てきたため、対等の日中協力には抵抗があると思われる。
 しかし、このままではじり貧となり、日本の科学技術に展望は無い。

などと言う話です。
 「中国が、将来を見据えて経済発展のために、科学技術研究に多額の予算をつぎ込むなどしてるのに、日本は逆に科学予算を減らしていいのか」「服部・復旦大学教授のように日本人学者すら好待遇に惹かれて中国のスカウトに応じるような事態でいいのか」と言う話です。
 楊の与太「日本の軍事大国化」はこうした「科学技術で発展する中国と、逆に没落しかけてる日本」と言う問題を解決するどころか、目をそらせかえって、事態を悪化させる有害な物でしか無い。まあ、楊も産経も「いたずらに中国を敵視するだけ」で事態を客観的に、論理的に考える能力ないし意思がないからこうなるわけですが。

*1:侵略戦争は悪」ならともかく、どこの世界にそんな日本人がいるのか。

*2:どう「具体的に枯渇したのか」説明できる物ならしてみろという話です。

*3:社会党が最大野党だったときですら、社会党支持者ですら「社会党の非武装論」を全面支持する人間は少なかったろうし、今や最大野党の立民はそんな立場ではないのに良くもデマが飛ばせたもんです。

*4:安倍が「靖国玉串料を送る」など、戦前に無反省なことが「日本の立場を悪くしている」のに良くもデマが飛ばせたもんです。

*5:後述しますが日本は楊が言うのとは別の意味で「先進経済国から転落するのも時間の問題」となっています。

*6:福州市党委員会書記、福建省長、浙江省党委員会書記、上海市党委員会書記、国家副主席、党中央軍事委員会副主席、国家中央軍事委員会副主席などを経て党総書記、国家主席党中央軍事委員会主席、国家中央軍事委員会主席

*7:単なる偶然ですが楊海英が在職しているのは静岡大学です。

今日の産経&朝鮮・韓国ニュース(2020年8月5日分)

教科書採択 育鵬社から切り替え相次ぐ 専門家「リーダーシップ持った教育委員、首長不在」懸念 - 産経ニュース

 これまで育鵬社版の歴史・公民を使ってきた自治体で既に状況が明らかになっている主なケースを見ると、栃木県大田原市が継続使用を決めた*1一方、横浜市のほか、東京都の都立中高一貫校*2▽神奈川県藤沢市大阪府河内長野市(公民のみ)▽同府四條畷市-などが他社版に切り替えた。
 埼玉県教育委員長を務めた経験がある麗澤大*3高橋史朗特任教授は「教育長をはじめ教委事務局には、内容が偏っていたとしても現場の教師の意見重視という考えが基本にある。これまで横浜などでは委員側が、そうした考えを抑えてリードしてきたが、(ボーガス注:委員)交代により勢力が変わった」と指摘。
 文部科学省によると、採択のシステムは各自治体で定める。しかし、調査員として選ばれた教員が各教科書の長所や短所などを調査した内容を基に、校長や学識経験者らでつくる委員会などで答申をまとめ、それをベースに教育委員が可否を議論するというケースがほとんどだ。
 高橋氏は「答申などに対して説得力のある反論ができる委員がいなくなれば、より現場の意向に流されやすくなる。首長らがリーダーシップを持って見識のある委員を加えるよう努める必要がある」と語った。

 「予想の範囲内」ですが、専門家と言って登場するのが高橋史朗なんだから呆れて二の句が継げませんね。専門家じゃ無くて当事者(つくる会元副会長)じゃ無いですか。
 しかも公然と「育鵬社採用のために首長がリーダーシップを発揮して欲しい」て特定企業を優遇するために首長が政治介入しろってそれ構図としては「安倍の政治介入で森友や加計が優遇された、安倍のモリカケ」と全く一緒なんですが(呆)。しかも「育鵬社は産経グループ」ですからねえ。同業他社(朝日、読売、毎日)が同じことをしたとして産経はそれを容認するのか。
 「系列会社への利益誘導を自治体に要望するのは新聞倫理上おかしい、法律違反でなければいいという話では無い」と産経は同業他社を批判するのでは無いのか。いつもながらデタラメな産経です。
 それにしても「育鵬社でなければそれでいい」という単純な話でも無いですが「育鵬社は最悪の選択」なので「育鵬社を辞めた自治体が増えたこと」をまずは素直に喜びたい。それにしても「記事もろくに書かずにほとんど放置プレーのつくる会不合格」とは偉い違いですね。「採択されない」程度でここまでむきになるわけですから。つくる会からすれば「その熱意をつくる会不合格問題にも使えよ!」でしょう。


ベイルート爆発、トランプ氏「攻撃とみられる」 根拠は示さず - 産経ニュース
 軍事攻撃の痕跡が今のところ見つかっていないが為に「事故説が有力」なのによくもまあデタラメが言えたもんです。


【主張】「徴用工」問題 現金化なら直ちに制裁を - 産経ニュース
 制裁して何がどうなるのか。「三権分立」であるために韓国政府にできることは「合法的な行為」としては何もありません。裁判所判決に政治介入なんかしたら明らかな違法行為です(まあ仮にできることがあったとしても「政治的、道義的な意味ですべきかどうか」は話が別ではありますが)。
 「以前も別記事で書いたこと」ですが、「光華寮訴訟中国敗訴判決(1987年、大阪高裁:ただし後で述べますが、2007年に最高裁で破棄差し戻しになり、事実上、中国が逆転勝訴)の時に『判決は日中平和友好条約批判だ、日本政府は何とかしろ』と抗議した中国相手に『三権分立だから政府には何もできない』として1987年・大阪高裁判決当時の中曽根*4政権が釈明したことをどう理解してるのか?」と安倍自民と産経を問い詰めたくなります。
 産経は当時、「共産党一党独裁の中国は三権分立を理解していない」「裁判判決に政府が介入したら違法行為だ」と中国を非難し、中曽根の釈明を支持していたはずですが。にもかかわらず韓国政府相手に「日本製鉄敗訴判決をなんとかしろ」「判決は日韓基本条約違反だ」だそうです。どこまで産経はデタラメなのか。
 安倍自民の制裁論が正しいなら「中曽根政権の釈明は間違いであり、中曽根は中国の要望に応えるべきだった」し、中曽根が正しいなら安倍の制裁論は間違っています。「中曽根の釈明は正しいが、安倍の制裁論も正しい」なんてことはない。
 しかし話が脱線しますが光華寮も今は「完全に廃墟」だそうですからね。そして最近の若者は「光華寮訴訟って何?」でしょう。何せ最高裁判決が出た2007年から数えても既に13年が経過しています。
 時の流れは速いもんです。

【参考:光華寮訴訟】

学士会アーカイブス | 会報・発行物 | 一般社団法人学士会
◆これからの日中関係
 中江要介(前中国大使・原子力委員会委員)No.779(昭和63年4月号)から一部引用
※本稿は昭和63年2月10日夕食会における講演の要旨であります。
 光華寮裁判の本質は何かというと、二つあります。一つは国内私法上の問題で、つまり所有権に基づく明渡し請求です。
 京都地裁の一審では簡単に言うと、居座っている学生の勝ち――つまり中国系の学生の勝ち、大阪高裁から差し戻し後の再審判決では所有権者側の勝ち、所有権者はだれかというと、登記簿には「中華民国」と書いてある。これを不満とした中国系学生側の控訴を今回大阪高裁は棄却して、京都地裁再審判決どおりだと言ったものだから、今度は学生の方が怒って、それなら最高裁判所に行きましょうと言うことでいま最高裁にかかっているのが現状です。これはたとえば日本国内である所有権者が不法占拠者に明渡しを請求している裁判があった場合、それに日本政府が介入して、裁判所の言うのは違う、こちらが正しいとか、そんなことは言えない、当り前のことですがそれが三権分立とみんなが言う問題ですね、これが一つです。
 もう一つの側面は、この裁判があろうがなかろうが、この留学生寮は国交正常化に伴って当然所有権は中華民国から中華人民共和国に移るべきものかどうかという国際法上の問題で、この二つの側面がある。中国はこれを混同しているようですが、故意に混同しているのかどうかわかりません。この第二の側面は大変に興味のある問題で、国際司法裁判所にでも行って争うに値するくらいの問題なのです。なぜかといいますと、ある国の政府が倒れて革命政権ができ、その新しい革命政権を承認したときに当然所有権が移る財産というのは、前の政権時代の大使館、領事館の土地建物とか、もし通商代表部のようなものがあればその土地建物、そういうものは当然新しい政府の方に移る。これはもう国際法上の通説ですからだれも疑わない。その次は、文化センターのようなものがだんだんグレー・ゾーンに入ってくる。そこで、留学生の寮というのは一体大使館の土地建物のようなものか、それとも単なる一私有財産かという問題なのです。
  中国では、留学生というのは政府派遣であって、その留学生がどこでどういう生活をして勉強するかは、国の政策に関するものである。だからこの留学生の寮というのは基本的に公の財産である。したがって大使館などと同じように国交正常化のときにその所有権は中華人民共和国に移っているのであり、その措置をとらなかったのは日本政府の怠慢だと、こうなっていくわけです。これは国際法上の一つの立場であるかもしれません。ところが、他方われわれの体制の国では、留学生のために外国に政府財産を持つことは殆どない。ですから、留学生寮というのは私的なもので、そこには政府留学生ばかりでなく、私費留学生も入ってくるわけですから、寮の管理も政府が直接やるのではなくて、寮の自治会とか、別の管理機関が管理するというような形になる。そういうたぐいの財産は、大使館の土地建物と同じように当然に所有権が移転するかどうかという点について、日本の国際法学者の多数説は、当然に移転するものではない、大使館などとは違うということなのです。しかし、移転するという立場をとったっていい。それは判断の問題で、どちらでもいいということです。ところが、中国の国際法の学者は一人の例外もなく、これは当然移転すると言う立場をとっています。体制が違うのですからこうなるのでしょう。
 それでは世界の国際法学者はどうかというと、これはさまざまでどうしても法的に決着をつけたければ国際司法裁判所にでも行くより方法がない。国際司法裁判所まで持っていくためには、日本と中国の間で特別合意書というものをつくり裁判にかける。こういう問題を裁判にかける場合、その合意書をつくるのに二、三年はかかるでしょう。そして、その判決が出るまでにさらにかなりの年月がかかります。一棟の寮の問題ではありますが、ことの性質上、こういう問題こそあいまいな政治的解決ではなく法律的にきちんとするのが、長い日中関係から見ていい解決だと私は思っているわけです。
  しかし、中国はまだこれは政治問題だといい張り、いま問題にしているのは大阪高裁の判決ですが、これは三権分立の制度の下では最高裁の判決がでるまでは行政府としては何とも言えないし、できない。どうしようもないから最高裁の判決をまちましょうということです。
 そのとき注意をしなければいけないまず第一のことは、先程申し上げたようにこの裁判が求めているのは不法占拠の明渡し請求であって、財産の所有権を争っているのではないということです。ですから判決そのものの中で、この財産の所有権者は「中華民国」と書いてあるけれども間違いで、中華人民共和国のものであるというようなそんな判決は出てこないのです。留学生は出ていくべきかいかざるべきか、それだけが判決ですね。法律というものはそういうものなのです。
 では判決の中でどこに問題があるかというと、その「判決理由」の中で、財産の所有権はだれだとか、その所有権は国交正常化のときにどうなったかというようなことにもし触れますと、これがすなわち中国の大変な関心事になるわけです。ではそういう方は心配はないかというとこれは心配ない。なぜならば、日本の憲法には国際約束は誠実に遵守すべしと書いてある(第九十八条第二項)。ある事案が憲法違反かどうかということを決める最終の権威あるととろは最高裁判所です(第八十一条)。ですから、日本の最高裁判所は日本憲法に反するはずがない。言いかえるならば、国際法に反することを書くはずがありません。
 中国は一つ、そしてその正統政府は中華人民共和国政府であるということで、これは共同声明と日中平和友好条約に明記してある。ですから、この国際法に反するようなことを最高裁判所判決理由に書くはずがない。私は、光華寮問題についてはきわめて楽観しておりまして、いまは静観するほかはないし、出てくる判決も心配することはない、最高裁判所を信頼しております、一国民としてはそれが正しい立場です、というのが私の見解です。

「 三権分立を放棄するのか最高裁 」 | 櫻井よしこ オフィシャルサイト週刊新潮』2007年5月3・10日号
・3月27日の最高裁第3小法廷で藤田宙靖*5(ふじた・ときやす)裁判長らが下した判断は、司法が政治を慮り、その影響を受けたのか、或いは特定のイデオロギーに染まったのかと疑わざるを得ないものだった。
・光華寮は1961年に台湾の中華民国政府が所有権を登記し、台湾学生たちの寮とした。そこになぜか、大陸系の中国人学生が入居。台湾政府は67年9月6日、彼らに寮の明け渡しを求めて京都地裁に提訴した。
 他方、日本国政府は(ボーガス注:田中*6首相訪中により)72年に大陸の中華人民共和国と国交を樹立し、台湾との国交を断絶した。
 京都地裁は先の訴訟に関して、77年、光華寮の所有権は台湾から中華人民共和国に移転されたとの判断を示した。敗訴した台湾側は控訴し、大阪高裁は台湾の主張を認めて審理を京都地裁に差し戻した。その結果、京都地裁は、逆転判決で台湾の所有権を認め、大阪高裁も87年、同様に台湾の所有権を認めた。ところが、光華寮に定住した大陸系の中国人寮生が同件を最高裁に上告したのだ。これが87年、今から20年も前のことだ。以来、最高裁は光華寮問題を塩漬けにしてきた。事態が突然、動き始めたのは今年1月22日だった。
 民主党(ボーガス注:判決当時。現在は自民)衆議院議員長島昭久*7は、この事案には極めて不透明な要素がつきまとうと指摘した。
「調査してみると、20年間放置された事自体、他に例がないのです。上告審は現在、平均数カ月で判断が示されますから、20年間の塩漬けが如何に異常かがわかります。にもかかわらず、今年1月22日に突然、審理が開始されたと思ったら、中国側、台湾側の双方に、3月9日までに各々の立場を釈明せよというのです。この裁判についての人々の記憶が消え去るほど長く放置したあと、わずかひと月半で釈明せよと命じる性急さ。裏にどんな事情があるのか、司法は納得のいく説明をしなければならないはずです」
最高裁の不可思議な態度
 台北駐日経済文化代表処の許世楷*8代表も指摘する。
「突如、最高裁の審理が始まり、ひと月半で裁判所の質問に答えよという命令です。20年の間に担当弁護士は80代、90代の高齢になりました。書類を精査する時間もいります。そこで私たちは回答期限の延長を求めましたが、却下されました。そして、3月27日、最高裁はこれまでの判決を覆し、台湾には光華寮の所有権はないとした*9のです。余りに政治的な判断ではないでしょうか」
 長島氏も指摘する。
「1月22日に最高裁が動き出した途端、25日には中国外務省副報道局長の姜瑜氏が定例記者会見で、光華寮事件は民事訴訟ではなく政治案件だと発言したのです。3月27日に最高裁判決が出ると、直後に中国の国営新華社通信が至急電で『日本の最高裁判断は、台湾当局は訴訟権を持たないと認定し、事件を一審の京都地裁に差し戻した』と高らかに勝利宣言を行いました。
 また、今回の判決はまさに中国側の訴訟代理人の回答書の理屈そのものによって成り立っています」
 訴訟当事者の一方の側の論理を重用したからといって、判決が偏っているとは、必ずしも言えない。だが、光華寮事件を中国側が「政治案件」ととらえるなか、今回の判決は最高裁が中国の影響を受け、中国側に偏ったと思わざるを得ない要素は多い。そもそも光華寮の所有権を中国側に認めるのには大きな問題がある。

 ちなみに最高裁判決が出た「2007年3月」は「第一次安倍政権」時代であり、そのこともよしこらウヨにとって「最高裁判決は安倍の政治的画策か?(安倍が俺たちを裏切ったのか?)」と言う疑念もあったようですね。
 そしてまた(?)安倍は「習主席国賓訪日」です。ウヨの「安倍が裏切った」という思いがまた復活したわけです。

*1:これは勿論残念ですね

*2:極右・小池が都知事なのに意外です。

*3:ウヨ宗教モラロジー研究所右翼団体日本会議にも参加)が母体のウヨ大学。高橋以外にも古森義久(元産経ワシントン特派員)、西岡力救う会会長)、八木秀次日本教育再生機構理事長、安倍政権教育再生実行会議議員、元「つくる会」会長)といった右翼活動家が麗澤大の教員をつとめている。モラロジーの極右性については例えば「歴史認識問題研究会」とは何か→モラロジー研究所なんだよなぁ…… : ネトウヨとはコインの裏表の関係参照

*4:岸内閣科学技術庁長官、佐藤内閣運輸相、防衛庁長官、田中内閣通産相自民党幹事長(三木総裁時代)、総務会長(福田総裁時代)、鈴木内閣行政管理庁長官などを経て首相

*5:東北大学名誉教授(行政法)。著書『行政法学の思考形式(増補版)』(2002年、木鐸社)、『行政法の基礎理論(上・下巻)』(2005年、有斐閣)、『最高裁回想録 学者判事の七年半』(2012年、有斐閣)、『裁判と法律学: 「最高裁回想録」補遺』(2016年、有斐閣)など(藤田宙靖 - Wikipedia参照)

*6:岸内閣郵政相、池田内閣蔵相、佐藤内閣通産相自民党政調会長(池田総裁時代)、幹事長(佐藤総裁時代)などを経て首相

*7:鳩山、菅内閣防衛大臣政務官、野田内閣防衛副大臣希望の党政調会長地域政党未来日本代表などを経て、自民党衆院議員(長島昭久 - Wikipedia参照)

*8:津田塾大学名誉教授。著書『日本統治下の台湾 : 抵抗と弾圧』(1972年、東京大学出版会)など(許世楷 - Wikipedia参照)

*9:「破棄差し戻し(過去の裁判判決には真理に不十分な点があるのでもう一度、一審の京都地裁から裁判をやり直せ)」なので「台湾の所有権はないとした」わけではありません。「過去の不十分な審理では台湾に所有権があるとは言えない(一方で無いとも言えない)」が正しいですね。

今日の中国ニュース(2020年8月4日分)

香港民主派リーダーが日本に求める「態度」|日テレNEWS24
 「香港民主派ってバカ?」「日本テレビってバカ?」ですね。安倍が今更そんなこと(国賓訪問中止)をやるわけが無いし、安倍がやったところで香港民主派が有利になるわけでも無い。そもそも「何らかのつてを使って」安倍に直接要請するので無く*1「日本マスコミ相手にこんなことを言ったところ」でどれほどの意味があるのか。
 こんなことしか言えないのだから北斗の拳「お前はもう死んでいる」風に言えば「お前はもう負けている」ですね。


ミサイル防衛「なぜ中国の了解がいるのか」 河野防衛相 - 産経ニュース
 まともな人間なら本心はともかく「建前の世界」においては「中国や韓国も理解してくれると思う」「理解してもらえるよう説明に力を入れる」というでしょう。それが「日本の国防政策に何で外国の理解が必要なのか」「そもそもミサイル防衛のターゲットの一つは中国の核ミサイルだ(だから中国が理解するわけがないし理解してもらうつもりも無いと言いたい?)」と居直るのだから呆れて物が言えません。本心なのか、安倍へのこびなのかはともかくどこまでバカなのか。親父さんはここまでのバカとは思えないのでまさに「不肖のバカ息子」ですね。


【一筆多論】尖閣の有人化ためらうな 佐々木類(1/2ページ) - 産経ニュース
 産経じゃあるまいし、さすがに安倍はためらうでしょうね。
 そもそも
1)日中関係に悪影響という問題もありますが、
2)こんなことをしたら、竹島北方領土で韓国やロシアが何をしようとも抗議しづらくなると言う問題もあります。
 そもそも有人化したところで何がどうなるのか。竹島北方領土の開発(?)を韓国やロシアが進めたら、「日本政府や産経は返還要求を諦めるのか」を考えれば*2話は中国との間の尖閣問題でも同じでしょう。

*1:この取材で「日本に来る予定は?」とインタビュアーに聞かれて「訪日しても何らかの成果があるかわからないので今のところは無い(俺の要約)」と明言しちまうのだから呆れます(ちなみに取材場所は彼が亡命した英国ロンドン)。訪日しても「成果があるか分からない(つまりは日本政財官界に働きかけるコネもないのでしょう)」のなら、それこそ「こんな取材を受けたところ」で何の成果もないでしょう。大体「成果があるか分からない(しかも取材場所がロンドン)」なんて言われて日本人の「香港民主派支援者」が「英国訪問は意味はあるけど、訪日は意味が無いんだ(憤慨)」と気分を害して香港民主派に距離を置くとは思わないのか。さすがにその危険性には気づいているのか、とってつけたように「勿論日本は大好きです」なんて言ってますがねえ。

*2:もちろん諦めるどころか韓国、ロシアへの反発を強めるだけでしょうが。